離縁したはずですが、元夫が再会後に溺愛してきます
6、揺るがない場所
樹さんがインターネット上のトレンドになった翌週、テレビインタビューでまた彼は好感度を上げていた。
それは生放送だったので私は見られなかったのだが、二週間経った今でも切り抜き動画が多く出回っている。
出演はホテルのPRの為であったが、アナウンサーは【世間で話題になっているあの件もぜひお伺いさせてください】と視聴率のとれそうな続報に期待を込めた目で質問をした。
【秘書との件ですね】
樹さんは質問を予想していたのか、嫌な顔をせずに淀みなく答えた。
【私には生涯この人だけだと思った女性がいて、その女性との間に子どもがいます】
スタジオのどよめきが画面越しにも伝わってきた。
【事情があり離れていたのですが、再会しまた共に人生を歩める運びとなりました。ですので、秘書との間には何もなく誤解です】
【そのご事情とは……?】
【調べればわかることですが、すべては彼女を守る為です】
艶然と微笑む樹さんに目を奪われたアナウンサーは一瞬言葉につまり、【素敵なご関係なんですね】とその話しを結ぶと、すぐに話題を変えてそれ以上は質問をしなかった。
問題はその後で、世間というのは情報収集がとてつもなく早い。
前社、深井ホテルの事件を特定し、【イケメンのリアルシンデレラストーリーえぐい】などという樹さんの出生を含む経歴の暴露投稿がまた注目を浴びていた。
美談にしすぎだとか、ホテルの名前を広めるための売名行為という否定的な声には、深井ホテルの元同僚たちが【めちゃくちゃ仕事できたのに成績横取りされて出世も邪魔されていた】と援護射撃するなど、とにかく彼関連の投稿は多く目立った。
「柊~明後日、運動会だねぇ。お弁当何入れる?」
スーパーで、カートを押しながら野菜を選ぶ。卵焼きにたこさんウインナーは必須だ。緑も欲しいけど、ブロッコリーと枝豆どっちにしよう。
外だからおにぎりの方がいいかも。
「から揚げとおにぎりはどう?」
精肉コーナーまで来ると、悩んでいた柊が顔を上げた。
「パパはなにがすき?」
「へ?」
「いっしょにたべるから、パパすきなのにする」
これまで以上にワクワクした瞳を向けられ、柊は樹さんが運動会に来ると思っていることにようやく気が付いた。
初めてパパと呼んだ日から、柊の中では樹さんは父親として認定されているらしい。
それはそうだ。口約束はしたが書類上ではまだ他人なのだと、こんな幼い子が理解できるはずがない。
どうやって説明しよう。それに、まだ正式に夫婦でない私たちが、家族として保育園の行事に参加していいものなのか。
「え、えっと……」
(こんな時、なんて言ってあげたらいいんだろう)
正直にいうべきか、樹さんは仕事で忙しいからと誤魔化すべきか。
数秒考えて、意を決してから話す。
「柊、難しい話なんだけどね、樹さんが柊のパパになるには、もう少しだけ時間がいるの」
意味はわからなかったようだが、運動会に来られないことだけは理解したらしく、柊は「えー?」と涙目になった。
「早く本当のパパになってもらいたいよね。でもね、ちゃんとパパになるには順番があって……」
「やだ。いっくんはオレのパパだもん!」
「柊、ごめんね。ママがちゃんとお話ししてなかったから……」
「やだやだやだ! うわーん! パパとうんどうかいする~!」
通路の真ん中で泣き出してしまった。
どうしよう。どうしたらいいんだろう。
大泣きする柊を抱っこすると、買物はその場で切り上げ、急いで精算をすませ店の外にでて、涙が止まらない柊を宥めた。
「そうだよね。楽しみにしてたんだよね」
運動会は二日後。土曜日だけど、樹さんはきっと仕事の予定が入っている。
クリアするのは、保育園と樹さんのスケジュールだ。柊の濡れた顔と鼻水を拭ってから、鞄からスマホを取り出す。
「なんとかできないか、手を尽くしてみるね……!」
どうしようじゃない。どうにかするんだ。理由を話せばなんとかなるかもしれない。今ならまだ先生たちがいるはず。さっきさよならをしたばかりの保育園に電話をかけた。