財閥令嬢の私が、三つ子の不良御曹司に世界を教えられるなんて
どうせ嫁に出されるなら。

金融の九条。

海運の有栖川。

政界の財前。

あるいは道明寺。

候補はその辺りだろうと思っていた。

だから相手の家柄については納得できる。

問題はそこではなかった。

私は静かに父を見る。

この人は本当に一度も聞かない。

私がどうしたいのか。

誰を好きなのか。

どんな未来を望んでいるのか。

一度も。

本当に一度も。

聞いたことがない。

最初から決まっている。

私は娘ではなく駒なのだ。

西園寺家の繁栄のための。

父にとっての私は。

胸の奥が少しだけ冷えた。

ああ。

やっぱり。

この人は私を道具としてしか見ていないのね。

裕作は続ける。

「だが、道明寺は息子が気に入った令嬢でないと結婚させないと言うんだ」

私は少しだけ眉をひそめた。

予想外の話だった。

「道明寺家にはお前の一学年上で、三つ子の翼、蓮、碧がいる」

三つ子。

聞いたことがある。

3人とも容姿端麗、頭脳明晰で仲が良いという噂だった。

「お前はこのGWと夏休み、冬休みに道明寺家へ花嫁修行に行け」

花嫁修行。

私は思わず笑いそうになった。

もちろん笑わない。

笑える話ではない。


「そして三人のうちの誰かを射止めてこい」

私は数秒黙った。

意味を理解するまで少し時間がかかった。

射止める。

つまり。

好かれろということだ。

裕作は平然と続ける。

「誰を後取りにするかはまだ決めていないらしい」

「……」

「お前には結婚相手の選択肢を三つやると言っているんだ」

選択肢。

私は心の中で苦笑した。

三人の中から選べるのだから感謝しろとでも言いたいのだろうか。

私からすれば、

知らない男A。

知らない男B。

知らない男C。

その中から選べと言われているだけだった。

「西園寺の後ろ盾があれば、お前の夫になった者は後取りになるだろうしな」

父の声には満足げな響きがあった。

まるで優秀な投資案件でも見つけたかのようだった。


私は静かに父を見つめる。

そして思う。

今この人の目に映っているのは娘ではない。

西園寺家というブランド。

道明寺家との政略結婚。

後継者争い。

企業価値。

株価。

権力。

そういうものだけだ。

私は膝の上で拳を握った。

爪が掌に食い込む。

痛い。

でもその痛みの方が現実味があった。

十五年間。

ずっと籠の中で育てられてきた。

けれど今。

初めて気づいた気がした。

私の人生は籠の中ですらない。

最初からお父様の手の中にあったのだと。
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