財閥令嬢の私が、三つ子の不良御曹司に世界を教えられるなんて
その時だった。



今まで黙っていた碧様が口を開いた。



「立花のは同情でも蔑みでもないよ」



静かな声だった。



けれど不思議とよく通る。



大地さんが碧様を見る。



碧様は続けた。



「ただの親切心だよ」



私は息を呑んだ。



その言葉が。



まるで私の代わりに説明してくれたみたいだったから。



そう。



私はただ。



あの女の子に笑ってほしかっただけだった。



それだけだった。



しばらく沈黙が流れる。



やがて。



大地さんは私の手の中の十万円を見る。



それから妹さんを見る。



妹さんは期待するような目で兄を見上げていた。



そして。



大地さんは小さく息を吐いた。



「……ありがとう」



その声はさっきまでよりずっと柔らかかった。



私はほっと胸を撫で下ろす。



大地さんはお金を受け取ると、

妹さんの手を握った。



「行くぞ」



妹さんは嬉しそうに頷く。



そして去り際。



女の子が振り返った。



「お姉ちゃん、ありがとう!」



満面の笑顔だった。



私は思わず手を振り返す。



兄妹は人混みの中へ消えていった。



その姿が見えなくなった後も。



私はしばらくその場に立ち尽くしていた。



胸の奥に。



言葉にできない何かが残っていた。

< 69 / 184 >

この作品をシェア

pagetop