傘の下、五センチの境界線

傘の下の五センチ

ビニール傘を叩く雨音が、やけにうるさく耳に障る。




放課後の校門。


傘を忘れて立ち往生していた私に、「……ほら、入れよ」とぶっきらぼうに傘を差し出したのは、クラスメイトの蒼空くんだった。



「あ、ありがとう……」


「別に。同じ方向なんだから、効率いいだろ」



そう言って前を向く蒼空くんの肩が、私のすぐ隣にある。



歩くたびに、制服の袖がかすかに触れ合う。


普通なら心臓が跳ねてしまいそうなこの至近距離。



でも、今の私の胸を占めているのは、甘い期待ではなく、ひりつくような痛みだった。



――こんなに近くにいるのに、心はなぜか遠い……。


この微妙な距離感…苦手…



ふと、昼休みの光景がフラッシュバックする。



廊下で楽しげに笑い合っていた、蒼空くんと香緒里先輩。

ポニーテールを揺らして歩く先輩は、誰もが振り返るほど明るくて、綺麗だ。



内気で、いつも一歩引いてしまう私とは、正反対の太陽みたいな人。



「……ねえ、蒼空くん」


「あ?」





「香緒里先輩、今日もポニーテール似合ってたね」



自分でも驚くほど、可愛くない声が出た。


蒼空くんは一瞬、傘を持つ手に力を込めた。



前を見据えたまま、低い声で答える。




「……まあ、あいつは何でも似合うんじゃねーの。明るいし」




――その言葉が、追い打ちをかけるように胸に刺さる。
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