金木犀の奏鳴曲(ソナタ)
詩月がそう思って依頼主の顔をチラと見た時、依頼主が「あっ!!」と声を上げた。

「詩月!! 周桜Jr. 」

依頼主はそれまで仏頂面だったのが嘘のように、穏やかな表情をした。

「何故、詩月が調律師などしている?」

「まあ、こいつは変わり者だからな」

先輩調律師が「なあ」と詩月の方を見てわらった。

詩月は「ROSE」を演奏し終えて、依頼主を振り返った。

「ピアニストがピアノの調律もできたら、一石二鳥でしょ」

詩月はアイドルスマイルさながら、微笑んで言った。

「君はまるで探偵のようだな。ヴァイオリニストだったり、ピアニストだったり、調律師だったり……いったいどれが本当の顔なんだ?」

「どれも詩月ですよ。手数が多い方が良いと思いませんか。僕にとっては全部、大事なんです」

詩月はフッと笑ってみせる。

「どれもどっち付かずにならないのか?」
< 106 / 108 >

この作品をシェア

pagetop