金木犀の奏鳴曲(ソナタ)
詩月には、英語での歌詞に比べ日本語での歌詞はやや優しいように思える。

英語の歌詞は「愛は川、柔らかに生きる葦さえも沈めてしまう」と唄う。

対して日本語の歌詞は「悲しみを押し流す、愛それは川」と唄う。

詩月はどちらがどうか、好きか嫌いかを考えたことはない。

どちらも納得できる歌詞だと思っている。

弾き始めて、どちらの歌詞も思い出し、傷んだピアノを思って演奏する。

ーー依頼主はこのピアノに、少しでも思い入れがあるのだろうか。娘が弾き始めると云うピアノをわざわざ修理してまで与えるのだから

詩月はそんな、とりとめのないことを考えながら、「ROSE」を演奏した。

詩月の演奏は上手く鳴らない音やガタついた鍵盤を苦心しながら弾いているとは思えない。

先輩調律師も依頼主も、不思議そうに詩月を見つめていた。

巧く演奏するものだ、とでも思ったのかもしれない。
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