金木犀の奏鳴曲(ソナタ)
「体質に合わないんだ……飲むと動悸がするし、頭痛がする」

「ふ〜ん」

小百合は言いながら、店内を見回した。

「ねえ、あれが例のピアノ? 立派なピアノなのに」

小百合は店内の1段高い場所に置いたグランドピアノを指さした。

「そう。戦場跡に置かれていたピアノ。新しいピアノに代わるまで大変だったのよ、ねえ詩月」

「ああ。鳴らない音や狂った音が多くて、苦心惨憺(くしんさんたん)しながら演奏していた」

「そんなピアノを修理、調律するために調律師に?」

「やりがいがあるだろ」

「物好きとしか言いようがないわね」

「小百合、同感。あたしもそう思う」

「先代のマスターが大事にしていたピアノだ。元の音を甦らせてやりたい」

「諦めていないのは詩月くらいだ。工房の調律師も毎回、調律を渋々引き受ける」

マスターが寂しそうに言い、ピアノを眺めた。

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