金木犀の奏鳴曲(ソナタ)
「おい。頑張って弾いてるな、あの子」

「ブラームスの『雨の歌』……ケルントナー通りやシュテファン広場で詩月が誰かと何度か演奏していたよな」

「思い出すな〜。毎回、演奏が違っていた」

小百合は面白半分でも興味本意でも、人が集まってくれればいいと思った。

ーー安坂貢は必ず来る、必ず

小百合の演奏に学生が、1人2人、3人と増えるごとに小百合の緊張感も増していった。

ーー詩月くん。詩月くんはいつも、こんな緊張感の中で平然と演奏していたの?

小百合は詩月が「街頭演奏は孤独と闘いながら演奏する」と言っていた事を思い出す。

演奏で聴衆を惹きつけなければならない、興味がなければ素通りされることもあるし、下手だと思えば見向きもされない。

或いは下手でも何かしら気を引く何かがあれば、立ち止まる。

野次を飛ばす者もいる。

でも、見向きもされず素通りされるよりは、ずっといい。
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