金木犀の奏鳴曲(ソナタ)
「理久はあー見えて、けっこう気が利くからな。周りをよく観ているし」

「『理久はあー見えて』とか呑気に言ってると、小百合も郁子も理久にさらわれるぞ」

「……ミヒャエル?」

詩月と小百合の声か同時だった。

「ミヒャエル、無駄口たたいてないで、奥からビールケース持ってきて」

ビアンカがミヒャエルを睨みながら言うと、ミヒャエルは渋々「ハイハイ」と倉庫へ向かった。

「ゴメンね。ミヒャエルが余計なことを」

ビアンカはすまなさそうに言うと、小百合の耳元に「しっかり掴まえて」と囁いた。

「詩月、動画編集していい?」

「ああ、頼む」

ーー「しっかり掴まえて」そんなこと言われても

小百合にはどうすればいいか、検討もつかない。

胸の鼓動が高鳴っていくのと、頬が熱くなっていくが解り、珈琲を一気に飲んだ。

口の中に広がった苦味が気持ちを落ち着かせ、小百合は大きく深呼吸した。
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