金木犀の奏鳴曲(ソナタ)

chapter3ーーショパン

ウィーンの冬は横浜よりも寒く冷たい。

11月下旬にもなると、コートに手袋が欠かせない。

詩月は手のケアに常時、ハンドクリームと使い捨てカイロを持ち歩く。

スマートフォンは忘れても、ハンドクリームは忘れない。

指の手入れ、爪、手の手入れは念入りにおこなう。

詩月はそれでも、寒さ対策も手のケアも万全とは思えない。

用心は常にしているし、体調には気を遣う。

演奏中、工房の作業中や出先での調律中、ヤバいなと思うこともある。

油断はできない。

モルダウで安坂と話していた時も、安坂に気づかれないように常備薬を服用した。

詩月は自分でも、かなり無理をしていることは自覚している。

修士課程は2年め。

課題も評価もかなり厳しい。

工房での技量指導もずいぶん難しくなった。

調律の専門学校も座学は1度、教材を読んだだけでは理解できない。
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