踏んで、蹴ったらホれられた

1. 好きって?

「ごめん、待った~?」

 いつものごとく遅れてやってきた友の顔を照明越しに覗く私、八田(やた)瑞喜(みずき)

「待った。めちゃめちゃ待った」

「わぁ~ご立腹」

 私はさほど怒りがわいているわけでもないが、苛立っているポーズを取ってみせる

 全く、この子は本当に困ったものだ。時間厳守、5分前行動を義務付けられてきた日本人としてはいささか動揺するにあたいするほどマイペースである

 ただ、それは間に合わせようとして最終的にあきらめにも似たような形でそうなることを私は知っている

 つくづく思うが、私はこの子のよき理解者になっている

「最近どう? いい感じ?」

 雰囲気のいいバー、黒い石材のテーブル席に着くなり聞かれる

 私はありのままの状況を端的に伝える

「変わりなく、順調です」

「おっ、それはそれは鷹揚(おうよう)なことで」

 ふふっと意味を含んだ笑みを浮かべる刎頸(ふんけい)の友、(ひかる)

「瑞喜ちゃん、あれからどうなった?」

 なんでもないことのようにドリンクメニューを捲りながら流れるように聞く光ことひかるん
 これはさっきの“最近どう?”という挨拶がてらの軽い質問とは違う

 ひかるんが尋ねているのは、もっと深刻なこと

 そう。私の恋愛事情についてだ……

 私は28年間、一度も誰かを好きになったことがない

「……うん、なにも変わらない。やっぱり私ってアセクシャルなのかな?」

 アセクシャルとは他人に性的な感情を抱かない、または非常に希薄な人を指す言葉である。ということをひかるんから学んだ。

「うーん、どうだろ? でも恋愛したいとは思ってるんでしょ」

「思ってる。めちゃくちゃ思ってる、でも見つからない」

 理想の相手が。

「……じゃあ、問題はやっぱり理想が高すぎることなんじゃないかな?」

「やっぱりそう思う……?」

 そうなのか、やっぱり私の理想の男性はこの世にいないのだろうか……
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