君の隣で、私になれた
夜風が少し冷たい。
大学の門の前。
黒い車。
助手席の窓がゆっくり開く。
「乗って」
私はドアを開ける。
「待たせてごめんね」
返事はない。
車に乗る。
ドアが閉まる。
沈黙。
「……楽しかった?」
「うん。みんな内々定もらえて嬉しかった」
「そう」
まだ車は出発しない。
湊は前を向いたまま言う。
「スマホ」
「あっ…」
私はスマホを差し出す。
湊は何も言わずスマホの画面を見る。
今日撮った写真。
4人の笑顔。
数秒。
スマホが返ってくる。
「次から男の隣はやめて」
私は顔を上げる。
「……え?」
「紅羽ちゃんの隣でいいでしょ」
私は写真を見る。
新と琉生。
ちょうど二人に挟まれていた。
「でもみんなで並んでて……」
「分かってる」
静かな声。
「だから怒ってるわけじゃない」
少しだけ安心する。
「ただ。立ち位置くらいは考えられるよね」
「…うん」
「違う」
「……はい」
「次からは分かるよね?」
「……はい」
湊は小さく頷いた。
「それでいい」
そう言って頭を優しく撫でる。
「いい子」
「内々定もおめでとう」
「頑張ったね」
優しく笑ってくれた。
その笑顔に。
私は少しだけ安心してしまう。
「ありがとう」
車は静かに走り出した。