愛とか恋とかウザいので
 その後メイクを落とし、ドレスから部屋着に着替えた萌依がリビングに行くと、同じく部屋着に着替えた蒼弥がデリバリーで食事の注文してくれていた。
 それが届くと、蒼弥がコレクションしている秘蔵のワインを開け、料理とアルコールを楽しみながら、ふたりで一緒に暮らすようになってからの日々を振り返った。
 プロポーズとも呼べない突拍子もない契約結婚の提案から、今日までまだ二ヶ月も経っていないのが信じられないほど話が弾み、話題が尽きることはなかった。
 特に千葉にふたりで食器を買いに行った日の心の内は、一緒に行動していたはずなのに、見える景色が全く違っていて、それこそ〝恋の答え合わせ〟をしているような気分にさせられた。
 さっきのパーティーのことにしてもそうだ。
 蒼弥から、彼がなにを思って十和企興に仕事を依頼することにしたのかを聞かされて、萌依は驚かされた。
 萌依の知らない場所で、眞希子が蒼弥に連絡を取り、館野常務が蒼弥に、そんな強引な営業をかけているなんて想いもしなかった。
 ふたりの会話がつきることがなく、自然な流れで、萌依も蒼弥の寝室で眠ることになった。
 同じベッドに潜り込み、お互いの方を向いて体を横たえると、蒼弥が萌依に腕枕をして、もう一方の腕を萌依の背中に回して、触れる指で優しいリズムを刻む。

「なんで恋をするのが無駄なんて思っていたんだろうな?」

 蒼弥がしみじみとした口調で言う。
 その声を聞けば、彼が萌依に恋したことを後悔しているのではなく、気持ちをすれ違わしていた時間を惜しんでいるのだとわかる。

「でもそのおかげで、私は蒼弥さんを結婚することができました」

 萌依からすれば、蒼弥は全てにおいて完璧な男性だ。そんな彼に、これまで人生を共にするパートナーがいなかったのは、蒼弥が恋愛など不要と考えていたからなのだ。
 そうでなければ、きっと今頃、蒼弥の隣には別の女性がいただろう。
 萌依は本気でそう思っているのに、蒼弥は納得しない。

「違う。もっと前に出会っていても、俺は萌依に恋をして、この結果に辿り着いていたはずだ。そうしたら、萌依は不快な思いをすることなかったのに」

 静かな後悔を感じさせる蒼弥の声に、彼の思いを理解する。
 萌依は、最初から蒼弥のように恋愛を拒絶して生きてきわけじゃない。亨介と眞希子のひどい裏切りに遭って、そんなふうに思うようになったのだ。
 もし萌依が最初からハルモニアに就職して、あのふたりに出会っていなければ、今は違ったのかもしれない。
 だとしても……。

「その過去があったからこそ、蒼弥さんが私をどれだけ愛しているのか、知ることができました」

 そう答えて、萌依は蒼弥の首に腕を回して体を密着させる。
 もちろん、つらい思いをすることなく生きていけるなら、それに超したことはない。
 だけどその過去がなければ、蒼弥が密かに自分を守ろうとしてくれていたことを知ることもなかった。互いの想いをすれ違わせた末に、彼が嫉妬を爆発させることもなかっただろう。
 ミツセに揶揄われていたと気付いた直後の蒼弥の顔を思い出すだけで、温かな感情で胸がいっぱいになる。
 過去の失恋当時に味わった世界が壊れたのかと思うような苦しみでさえ、これほどまでに蒼弥を愛おしく想うための布石だったのだと思えば、全てが酬われる。

「これから、いっぱい幸せにしてください」

 萌依がそう続けると、蒼弥がその体を強く抱きしめた。そして萌依の肩を軽く押して、萌依の目を真っ直ぐに見つめた。

「俺のこの先の人生全てをかけて幸せにすると誓う」

 そう宣言した蒼弥は、そのまま萌依に顔を寄せる。
 相手の求めるものを理解している萌依は、首の角度を調節して蒼弥と唇を重ねた。
 永遠の愛を誓うためのキスは、すぐに互いの深い愛情を確かめるための大人のキスに変わっていく。

「んん……」

 肩を押されベッドに萌依の体が仰向けになると、蒼弥が上に多い被さり、再度唇を重ねる。
 蒼弥が腕をついて体重を調整してくれているので、息苦しいということはない。だけどこの態勢でのキスは、圧倒的な男女の体格差を感じて、妙に萌依を落ち着かない気持ちにさせる。
 それでいて、それが妙に心地いいのは、彼が自分を愛してくれているとわかっているからだ。
 彼が与えてくれる愛に満たされたいと、女性としての本能が訴えかけてくる。

「蒼弥さん、愛しています」

 濃厚な口付けの合間に、萌依が愛を囁くと、蒼弥が「俺もだ」と返して、再度唇を重ねる。
 彼の舌が、自分の舌に絡みつく感覚に、萌依の体は甘い痺れに満たされていく。その幸福な感覚がもっとほしくて、萌依は自分からも舌を絡めた。

「ふぁ……んんっ。あ、蒼弥さん……」

 濃密なキスをする蒼弥の手が、萌依の胸に触れた。
 今はパジャマ姿の萌依は、その下にはキャミソールなどの下着しか身につけていない。そのため、さっきよりずっと強烈に彼の手の動きを感じる。
 蒼弥が手を動かす度に、強く柔く、柔らかで弾力のある萌依の乳房が形を変えていく。

「あっあっあっ」

 蒼弥の手に胸を揉みしだかれて、萌依はせつない声をあげた。
 自分を求める彼の情熱が、肌を通して萌依の心を刺激する。胸を揉まれているだけだと頭ではわかっていても、心まで彼の求めるままに作り替えられていくような錯覚を覚えてしまう。
 そしてそれが、ひどく心地よい。

「蒼弥さん、もっと」

 気が付けば、そんな淫らなお願いが萌依の口から零れていた。
 自分の本能に忠実で、ほしいものを手に入れるために手段を厭わない蒼弥の瞳に、野性的な光が揺らめく。

「あまり俺を煽るな」

 言葉では萌依を窘めているが、雄としての欲望を押さえるつもりはないのだろう。
 萌依の首筋に肌を味わうようなキスをして、胸を揉みしだいていた手を萌依のパジャマのボタンへと異動させていく。

「萌依、責任取れよ」

 萌依のパジャマを脱がせながら蒼弥が言う。

「責任?」

 それが意味するところがわからず萌依が言葉をなぞると、蒼弥の瞳にいたずらな光が宿る。

「俺をここまで夢中にさせた責任。……一生をかけて、俺の愛を受け取る覚悟を忘れるな」

 反論の余地はないと言わんばかりに、蒼弥はそのまま萌依の唇を奪う。
 そして自分も着ていたものを脱ぎ捨てると、情熱的に萌依の肌を求めた。
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