Hidden love.
 桐生さんは私達の前に座ると、タブレットを目の前に置いた。


「何度も辛い話を思い出させてしまい、申し訳ございません。ですが、正確な情報のために、もう一度お伺いしていた内容の確認から入りますね」

「はい」


 桐生さんの言葉に深呼吸をし、話す体制に入る。そんな私を大樹は少し心配そうに見ていたけれど、私が軽く頷くと頷き返してくれた。

 やっぱり大樹が近くにいてくれるだけで心強い。


「今回は、相手の浮気で婚約破棄をされて、それに対し、慰謝料、もしくは支社への異動を和解条件にしたいということでお間違いないですか?」

「…はい。間違いありません」


 桐生さんはタブレットにタッチペンで何かを書き込むと「なるほど」と相槌を打っている。


「もう聞きたくないものかとは思うのですが、例の音声を私にも聞かせてもらえませんか?」

「はい」


 スマートフォンを取り出し、航平との音声を撮ったものをこの場で再生する。ザザザ…とノイズが入った音が聞こえると、私の声が先に聞こえてきた。


​『今の話本気?  二股掛けてたってこと?  私との婚約期間中に』
『…だったら?』
『何、開き直ってんのよ……!』
『お前、可愛げもないんだよ。口うるせぇ、母親みてぇで、抱く気も起きない』
『な、なんなの、それ!』
『お前にも飽きてきてたし、結婚式の話進む前だし、決めるなら今だっただろ。親に話すのだけだるいけど、価値観の不一致なんてよくある話だよな?』


 この時のことだけはいまだに忘れない。あの人を嘲笑うような態度で、謝罪もせず、罪悪感すら無さそうな、あの男の顔。

 スーツのパンツを掴み、拳でぎゅっと握りしめていると、それを見ていた大樹がその上から私の手を握りしめた。私よりも随分強い力で、堪えるように。


​『親に騒ぐとか、面倒なことするなよな。こんなクズ忘れて、そっちも条件のいい男探せば?』


 ここで音声が止まる。この発言が既に、私は騒ぎにすることはしないと、舐められていたのだと思った。思い通りに泣き寝入りしなくて、本当に良かったかもしれない。

 時が経って冷静になった今だからこそ見えてくるものがあった。
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