レディ・マーメイド
結婚披露宴が無事にお開きとなり、午後の催しのミーティングを終えたあと、樹莉は黒木を昼食に誘った。

「黒木さん、どうかしましたか?」

制服の上からカーディガンを羽織り、ロビーラウンジのテーブルで向かい合って座ると、樹莉は妙にしょんぼりしている黒木が心配になって尋ねた。

「なにか大切な用事があるなら、私は本当に大丈夫ですから、亜紋さんのところに戻ってくださいね」
「いえ、それがそういう訳にもいかず……。実は亜紋さんに命じられてしまって」
「なにを?」
「樹莉さまが担当する午後の催しに、ゲストとして参加しろと」
「私の午後の担当って……。ええ!? 婚活パーティーですよ?」

黒木は苦虫を噛み潰したような顔で頷く。

「私は今、人生で1番のピンチを迎えています。どうすればいいのかさっぱりわからず、上手くゲストとして溶け込む自信がありません」
「ああ、なるほど。えっと、とにかくオーダーしましょうか。ここはローストビーフサンドが絶品ですよ」
「ではそれを」

肩を落としたまま、黒木は二人分のローストビーフサンドを注文した。

「美味しいですね」

運ばれてきたローストビーフサンドを食べながら、しみじみ呟く黒木は哀愁が漂う。

「あの、黒木さん? 気軽に楽しんでくださいね、婚活パーティー」

すると黒木は顔を上げ、捨てられた子犬のように弱々しく見つめてきた。

これまでのキリッとクールな黒木とは余りにかけ離れた表情に、樹莉は驚く。

「えっ、黒木さん? 大丈夫ですか?」
「無理かもしれません。ここまで得体の知れない敵とは戦ったことがないので」
「敵って、そんな大げさな」

苦笑いすると、黒木は真剣に身を乗り出した。

「樹莉さまは婚活パーティーの場に挑んだことはあるのですか?」

挑んだ?と眉根を寄せながら、樹莉は首を振る。

「ありませんが、今日の婚活パーティーは既に何度か担当したことがあるので流れはわかります」
「本当ですか? ぜひご教授願います!」

食いつかんばかりの黒木に、樹莉は説明する。
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