レディ・マーメイド
「まず最初に受付で、運転免許証などを見せてご本人確認をします」
「なんと! 偽名は使えないのですか?」
「はい。今日のパーティーを主催する会社は、身元が確かな人を対象にしているので。でも本名を名乗るのは受付だけですよ。番号札を渡されるので、パーティーではそれを胸元につけます。あとは皆さま、ニックネームなどを名乗っていらっしゃいます」

ニックネーム……と黒木は考え込む。

「黒木さん、あだ名は?」
「黒木です」
「それだと本名じゃないですか」
「ですが、黒木としか呼ばれたことないですし……」
「黒木さんの下のお名前は?」
大輔(だいすけ)です」
「じゃあ、だいちゃんで」

だいちゃん!?と、黒木は素っ頓狂な声を上げた。

「そんな呼ばれ方をしたらば、黒木大輔、この先顔を上げて道を歩けません!」
「またそんなことを……。その場限りだからいいじゃないですか」
「ダメです! 無理です!」
「じゃあどうしますか? 他にいい案はありますか?」

うーん、と黒木は腕を組む。

「黒木の黒で、ブラックはどうでしょう?」
「んー、婚活パーティーだから明るくいきたいですね。それなら黒木の木の方で、ウッディーにしましょう」
「ウッディー……」
「だいちゃんの方がいいですか?」

黒木は慌てて首を振った、

「いえ、ウッディーで」
「よかった! 決まりですね。そのあとはプロフィールカードを記入します。趣味や特技、理想のデートとか家族像とか」

は!?と、またしても黒木は固まる。

「趣味? 私の趣味とは?」
「私に訊かれても……。ウッディー黒木さんは、休日はなにをして過ごしてるんですか?」
「ランニングと筋トレとジムです」
「……ムキムキですね。ニックネーム、ムッキーの方がいいかも」
「樹莉さま! お願いですから真剣にお考えください」

眉を八の字に下げる黒木に懇願され、樹莉は考えを巡らせた。

「では私が想像するウッディーさんのプロフィールを申し上げますね」
「はい、お願いします」
「まず、趣味はドライブと映画鑑賞。特技はテニスとDIYと護身術。ジムで身体を鍛えているので、なにかあれば身を挺してあなたをお守りします。理想のデートは海へのドライブと海外旅行。将来の家族の理想は公園で子どもと遊んだり、運動会の父親競争で1位になること」

ちょっと細かく言い過ぎたかな、と思いきや、黒木は真剣に頷きながら聞いている。

「一人暮らしが長く家事もひと通りこなすし、料理も作ります、とかだとポイントも上がりますよ」
「ポイント制なのですか?」
「そうなんです。お互いのプロフィールカードを見ながら1対1のトークタイムが3分ずつあるんですが、忘れないように印象を5段階で書いておくんです。3分経ったら席を隣に移して次の人と。それを繰り返して全員とトークを終えると、次はビュッフェスタイルで食事をしながらのフリータイム。最後にお目当ての方の番号を書いた紙をスタッフに渡して、見事カップル成立となれば、そのあとお二人の連絡先を交換するシステムです」

黒木はもう、頭を抱えんばかりに困り果てている。

「ダメだ……。帰りたい」
「大丈夫、私もついてますから」
「本当に? なにかあれば助けてくださいね」
「もちろん」
「お願いします。樹莉さまだけが頼みの綱です」
「わかりました。一緒に立ち向かいましょう。がんばれ、ウッディー!」

拳を握ってみせると、ようやく黒木はいつものキリッとした表情で頷いた。
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