レディ・マーメイド
◇
ある夜、夕食を食べ終えた樹莉が部屋で神谷とおしゃべりしていると、珍しく早く帰ってきたらしい亜紋が顔を覗かせた。
「樹莉」
「亜紋さん! どうされました?」
「疲れていなければ、ガーデンのライトアップでも見に行くか?」
「ガーデンがライトアップされているんですか? はい、見に行きたいです」
「よし、行こう」
すると神谷が「樹莉さま、せっかくですから浴衣に着替えてはいかがですか?」と尋ねる。
「え? 浴衣なんて持ってないです」
「ご心配なく。樹莉さまに似合いそうなものを見繕っておきました」
そう言って神谷は樹莉をパウダールームに連れて行く。
紺色に美しい紫陽花が描かれた浴衣を樹莉に着付け、髪をアップに結い、最後に紫の鼻緒の下駄を履かせた。
「まあ、お美しい」
「いえ、あの、神谷さんの手際のよさが素晴らしすぎてびっくりです」
「ふふっ、魔法みたいでしょ?」
「本当に」
「さあ、亜紋さまがお待ちですよ」
神谷に手を引かれて、樹莉は部屋に戻る。
「樹莉……」
顔を上げた亜紋が驚いたように目を見張った。
「あの、似合わないでしょうか?」
樹莉が戸惑って訊くと、亜紋は即座に首を振る。
「いや、和服美人で驚いただけだ」
樹莉は少し眉根を寄せた。
(和服美人って、普段は美人じゃないけど和服のおかげで何割か増しに見えるってことかな? 真顔で言われたってことは、褒められてないもんね)
そんなことを考えていると、亜紋が左手を差し出した。
「樹莉、行こう」
「はい」
樹莉が右手を重ねると、亜紋は優しくその手を引いて抱き寄せる。
「行ってらっしゃいませ」と神谷に見送られて、二人は部屋を出た。
ある夜、夕食を食べ終えた樹莉が部屋で神谷とおしゃべりしていると、珍しく早く帰ってきたらしい亜紋が顔を覗かせた。
「樹莉」
「亜紋さん! どうされました?」
「疲れていなければ、ガーデンのライトアップでも見に行くか?」
「ガーデンがライトアップされているんですか? はい、見に行きたいです」
「よし、行こう」
すると神谷が「樹莉さま、せっかくですから浴衣に着替えてはいかがですか?」と尋ねる。
「え? 浴衣なんて持ってないです」
「ご心配なく。樹莉さまに似合いそうなものを見繕っておきました」
そう言って神谷は樹莉をパウダールームに連れて行く。
紺色に美しい紫陽花が描かれた浴衣を樹莉に着付け、髪をアップに結い、最後に紫の鼻緒の下駄を履かせた。
「まあ、お美しい」
「いえ、あの、神谷さんの手際のよさが素晴らしすぎてびっくりです」
「ふふっ、魔法みたいでしょ?」
「本当に」
「さあ、亜紋さまがお待ちですよ」
神谷に手を引かれて、樹莉は部屋に戻る。
「樹莉……」
顔を上げた亜紋が驚いたように目を見張った。
「あの、似合わないでしょうか?」
樹莉が戸惑って訊くと、亜紋は即座に首を振る。
「いや、和服美人で驚いただけだ」
樹莉は少し眉根を寄せた。
(和服美人って、普段は美人じゃないけど和服のおかげで何割か増しに見えるってことかな? 真顔で言われたってことは、褒められてないもんね)
そんなことを考えていると、亜紋が左手を差し出した。
「樹莉、行こう」
「はい」
樹莉が右手を重ねると、亜紋は優しくその手を引いて抱き寄せる。
「行ってらっしゃいませ」と神谷に見送られて、二人は部屋を出た。