レディ・マーメイド
そしてやって来た今夜のパーティー。

亜紋は立場上、目立った動きはできず、金盛の監視を黒木に頼んでいた。

(このパーティーは同じホテル業界だけでなく、海外のホテルも手掛ける旅行代理店も一堂に会する。恐らく実行犯はこの中の誰か。金盛が裏で手を引いているなら、なにかしらの接触はあるはずだ)

そう考えつつ、亜紋は普段通り振る舞っていた。

挨拶が落ち着いた頃合いを見て、亜紋は離れたところにいる黒木に電話をかける。

黒木は金盛から目を離さず、内ポケットのスマートフォンを取り出して応答した。

「どうだ? 様子は」
「至って普通に見えますが、気になる点が1つだけ。金盛社長はサンセットトラベルの須藤(すどう)社長と、今夜はまだ1度も挨拶を交わしていません。私の記憶では、お二人はこれまでの懇親会では、1番に握手を交わす仲だったと思います」

よくそんな細かいことを覚えているものだと感心しつつ、亜紋は指示を出す。

「このまま金盛社長と須藤社長の様子をうかがってくれ。今夜は俺についてくれなくて構わない」
「承知しました」

黒木に任せておけば安心だ。

パーティーがお開きになり、亜紋は他のゲストと談笑しながらロビーに下りる。

チラリと辺りに目をやると、ひと目につかない大きな柱の後ろで、金盛と須藤がなにやら顔を寄せ合って揉めているのが見えた。

少し離れた観葉植物の隣に、まるで影のようにひっそりと黒木が身を潜めている。

しばらく亜紋もその場に留まり、電話をかけるフリをしながら様子を見ていたが、金盛と須藤は真剣に言い合っている。
どうやら須藤が金盛に怒っているようだ。

まだまだ時間がかかると見て、亜紋は黒木に小さく頷くと、そのままエントランスから外に出た。

「九條さま、お待たせいたしました」

バレーパーキングのスタッフが亜紋の車を回してくれ、亜紋は運転席に乗り込んだ。

いつもは黒木に運転してもらうが、今夜はこのまま黒木にあの場を任せることにする。

ロイヤルクレストの執務室で黒木の帰りを待とうと車を走らせていると、大通りをそれた暗いビル街で、女の子が怪しい男に腕を掴まれているのが見えた。

急いで車を停めて降り、路地裏に駆け込む。

女の子を押さえつけている男の襟を後ろから掴み、地面に張り倒した。

うめき声を上げる全身真っ黒な服装の男は、40代くらいだろうか。

亜紋は見覚えがなかった。

とにかく女の子を連れて車に戻り、すぐさま発進させて男を振り切る。

だがバックミラー越しに男が車であとをつけてくるのが見えて顔をしかめた。

(この子を狙っているのか?)

女の子を横目で見ると、黒髪をシニヨンでまとめ、真っ白なブラウスの上にカーディガンを着ている。

先程のバンケットホールにいた、たくさんの女性スタッフと姿が重なった。
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