レディ・マーメイド
ちょうどその時、壁のドアをノックする音がした。

「はい、今開けます」

返事をした神谷が開けたドアから、亜紋が姿を現す。

「樹莉」

名前を呼ばれただけで、樹莉は頬が赤くなるのがわかった。

(亜紋さん、かっこいい)

こんなに背が高く、スーツが似合い、スタイルもよかったなんて。

前からそう思っていたけれど、久しぶりに見る亜紋は記憶の中の亜紋より何倍もかっこく見えた。

いや、きっと会いたいと願っていたから、それが叶って嬉しい気持ちもあるせいだろう。

(やっとまた会えた。嬉しくて、夢みたいで、ちょっと緊張する)

恥ずかしさに視線を落としていると、亜紋がすぐそばまでやって来た。

「樹莉」
「はい」

顔を上げると、亜紋は柔らかい笑みを浮かべて樹莉を見つめる。

「元気だったか?」
「はい、おかげさまで。亜紋さん、色々とありがとうございました」
「いや、解決するのが遅くなってすまなかった。もう大丈夫だから安心してほしい」

そう言う亜紋が一番ホッとしているように思えた。

(きっと私を守ろうとしてくれていたんだな)

いつも固い表情だった亜紋が、今はとても優しく、そして変わらず頼もしい。

「行こうか、樹莉」

手を差し出されて、樹莉は「はい」と頷いた。

亜紋の左腕に手を添えてロビーに下り、停められていた車に乗り込むと、神谷と黒木が「行ってらっしゃいませ」と見送る。

どうやら今夜は亜紋が運転するらしかった。

「行ってきます」

助手席から、樹莉は笑顔で二人に手を振った。
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