レディ・マーメイド
「樹莉……」

抱きしめられたまま耳元でささやかれ、樹莉は身を固くする。

「亜紋さん、あの……」

顔を上げると、亜紋が心配そうにじっと見つめてきた。

「樹莉、酔ってるな。顔が赤いし目も潤んでる」
「いえ……」

それは酔っているせいではないと言おうとしたが、恥ずかしさにうつむく。

(私、亜紋さんにドキドキしてる)

すると亜紋が少し身を屈め、一気に樹莉を抱き上げた。

「ひゃ、あの、亜紋さん?」
「酔ってるのに高いヒールで歩くと危ない。プールサイドで少し酔いを覚まそう」

樹莉は密着している身体を意識して真っ赤になりつつ、重いと思われたくなくて亜紋の首にしがみついた。

「樹莉、前が見えない」
「あっ、ごめんなさい」

慌てて視線を上げると、すぐ目の前に亜紋の顔があって、樹莉は思わず息を呑む。

亜紋はそんな樹莉に、ふっと頬を緩めると、大きな歩幅で歩き始めた。

樹莉はもう言葉もなく身を委ねるしかない。

緑が豊かに生い茂るガーデンプールに出ると、亜紋は水際まで行き、そっと樹莉を下ろした。

「足を冷やすといい」
「はい」

樹莉はサンダルを脱ぐと、そっとプールの水に足を浸す。

「冷たくて気持ちいい」
「そうか」

二人並んでプールサイドに座り、夜風に吹かれる。

パシャッと足を揺らしながら、樹莉は月に照らされてキラキラ輝く水面を見つめた。
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