モテ男の北原くんは、報われない恋をしている
 気丈に振る舞う彼女に「無理しないでくださいね」と言うと、『うん、ありがとう』とお礼を言われた。

 あぁ。今彼女はオフィスにひとり、無理して笑ってるんだろうな。そう思った。

 電話を切ると、北原が「何だって?」と私を見る。

 何気ないふりをしているけど、吉野先輩のことが気になって仕方ないんだろう。

「……彼氏さんの帰国が、延期になったみたい。先輩、ひとりで会社に残って仕事してるって」

 そう言った瞬間、北原は迷うことなく立ち上がった。
 財布からお札を取り出して、私の前に置く。

「悪い。行くわ」

 短く言われ、「そっか」と笑う。
 先輩から着信があった時点で、こうなるような予感はしてた。

「落ち込んでる先輩につけ込んで、口説くんだ?」

 笑いながらからかうと、北原は「そういうんじゃなくて」と首を横に振る。

「純粋に、落ち込んでる先輩をひとりにしときたくない」

 北原はまっすぐに私を見ながらそう言った。
 打算も余裕もない。ただ好きな人のためだけに動こうとする、ひたむきな想いだけがあった。

「そっか。頑張って」

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