どちらかひとりが私の婚約者!?
それは、美保が20歳を迎えた春のことだった。
赤羽家の古めかしい応接室で、父親から「黒鉄家の跡取りと婚約してもらう」と告げられたとき、美保の前に現れたのは、あまりにも対照的な二人の美男子だった。
「初めまして、美保さん。僕が兄の壮(そう)です。これからよろしくね」
大人の余裕を感じさせる優しい微笑みを浮かべ、美保の手をそっと包み込んでくれたのが兄の壮。
その温もりに、美保は「素敵な人だな」と素直に胸をときめかせた。
しかし、その背後から冷ややかな、だけど射抜くような視線を注いでくる男がもう一人。
「……弟の蓮(れん)だ。よろしく」
ぶっきらぼうに挨拶した蓮は、美保と目が合った瞬間、フッと不敵に口元を歪めた。
そのどこか危険な色気に、美保の心臓はドクンと嫌な跳ね方をしたのを覚えている。
双子という想定外の事態に、両家は大混乱となった。
「赤羽家の婚姻の掟は絶対。だが、どちらが美保さんの『運命の相手』なのか……」
そこで両親たちが導き出した解決策こそが、あの前代未聞の【3ヶ月間の同居生活と、曜日制の添い寝スケジュール】だったのだ。
「月・水・金・日は、兄の僕が美保さんをエスコートするよ。少しずつ僕に慣れていってね」
壮は紳士的に微笑み、美保を安心させるように配慮してくれた。
一方、蓮はスケジュールが書かれた紙を一瞥すると、チッとあからさまに舌打ちをした。
「おい、なんで俺の当番が火・木・土の3日だけなんだよ。壮より1日少ないじゃねえか」
「不満を言うな、蓮。ジャンケンで負けたのはお前だろう」
「……チッ、クソ兄貴が」
こうして、美保を巡る双子の奇妙な争奪戦がスタートした。
月、水、金、日――。
壮の担当日は、まさに極上のシンデレラタイムだった。
高級なレストランに連れて行ってくれたり、部屋では優しく髪を乾かしてくれたり。
ベッドの中でも「嫌なことはしないからね」と、美保が自ら受け入れるまで、大切に、大切に抱きしめてくれる。
その過保護なまでの優しさに、美保は心地よい幸福感で満たされていた。

しかし、火、木、土――。
蓮の担当日は、一転して心臓がもたないほど刺激的な夜となる。
「壮のやつ、今日も優等生ぶってたろ。お前、あいつに優しくされて喜んでんの?」
部屋に入るなり、蓮は美保を壁に押しつけ、意地悪に耳元を噛んできたりする。
強引に引き寄せられるたびに、美保の身体はなぜか言葉とは裏腹に、熱く疼いてしまうのだった。
「俺の日は3日しかないんだから、その分、濃密に可愛がってやるよ……」
壮との穏やかな夜に癒やされつつも、蓮の荒々しく激しい執着に、じわじわと身体の奥を侵食されていく美保。
「私の運命の人は、一体どっちなの……?」
そんな甘く苦しい葛藤を抱えたまま、同居生活は進み――そして、運命の「土曜日の夜」へと繋がっていくのだった。



「月水金日も、全部俺のものだ……!」
そう宣言した蓮の言葉は、決して脅しではなかった。
翌日の日曜日。
本来なら「壮の当番日」であるはずの朝、美保が目を覚ますと、そこはまだ蓮のベッドの上だった。
身体中には、昨夜遅くまで蓮に激しく求められた痕跡が、赤々としたキスマークとなって刻まれている。
「ん……、れん、くん……?」
美保が身じろぎすると、腰に回された蓮の腕が、さらにギチギチと強く美保を抱きすくめた。
「起きんな。今日は日曜日だけど、壮には渡さない」
蓮は美保の首筋に顔を埋め、独占欲を隠そうともせずに甘く囁く。
そこへ、部屋のドアが静かに開いた。
入ってきたのは、いつも通りの穏やかな、しかしどこか冷徹な笑みを浮かべた壮だった。
「蓮、そこまでにしなよ。今日は日曜日、僕の番だ。美保さんを返してもらおうか」
普段なら気まずさに縮こまるはずの美保だったが、蓮の身体に触れている今の美保は、もう自分の熱情を止められなかった。
美保はシーツを胸元まで引き上げながら、壮をまっすぐに見つめた。
「壮さん……ごめんなさい。私……蓮くんのことが、止められないの……っ」
壮は一瞬、目を見開いた。
だが、美保の潤んだ瞳と、蓮の満足げな、かつてないほど執着に満ちた表情を見て、すべてを悟ったように静かに息を吐いた。
「……そうか。血のジンクスは嘘をつかない、ってことだね」
壮は寂しげに微笑むと、フッと降参するように両手を挙げた。
「負けたよ。美保さんをそんな顔にさせられるのは、僕じゃなく、蓮だったみたいだ。……でも、蓮。もし美保さんを泣かせたら、いつでも奪い返すからね」
「させるかよ。一生、俺の腕の中から出さない」
蓮は壮を睨みつけながら、見せつけるように美保の唇を再び深く塞いだ。
壮が静かに部屋を出ていき、完全に二人きりになった室内。
「美保……もう一回、ちゃんと言って。俺のが欲しいって、おねだりして?」
「んっ……、はぁ……っ。蓮くん……蓮くんのが、もっとほしい……っ、私を、いっぱいに、して……!」
運命のジンクスに背中を押され、二人は曜日のルールさえもすべて壊し、互いの愛を貪り合うように、再び熱い快楽の海へと沈んでいくのだった。

「蓮くん……ん、あ……っ!」
自分の名前を呼ぶ美保の、甘く、どこか切羽詰まった声が、蓮の理性をこれ以上ないほどにかき乱していた。
曜日のルールも、壮への遠慮も、すべてが消え去った部屋。
美保の身体は、蓮の指先が触れるたびに、まるで電流が走ったかのように激しく震え、蜜を溢れさせていく。
運命のジンクスはあまりにも強力で、美保自身、自分の身体がこんなにも熱く、淫らに疼くなんて知りもしなかった。
「は、ぁ……、れん、くん……すご、い……これ、とまら、ない、よ……っ」
「止めなくていい。……っていうか、俺ももう止めらんねえから」
蓮は美保の細い腰をガッチリと掴むと、容赦なく、しかし狂おしいほどの愛を込めて、彼女のすべてを突き上げた。
「あぁっ……! ぁ、ん……っ!」
脳裏が真っ白になるほどの衝撃が美保を襲う。
壮のときは、いつも優しく気遣われ、心地よい微熱に包まれるような感覚だった。
だけど蓮は違う。熱病のように身体を焼き尽くし、ただひたすらに「俺だけを見ろ」と五感のすべてを支配してくる。
その激しさが、怖いくらいに気持ちいい。
「美保、お前、今最高に可愛い……。ずっとこうして、俺のことだけ考えてろ……っ」
蓮の額から一滴の汗が美保の胸元に落ちる。
嫉妬に狂っていた男の顔は消え、今はただ、愛しい恋人を独占できた歓喜にその瞳を濡らしていた。
「れん、くん……っ、だい、すき……っ。もっと、もっと……きつく、して……っ!」
「っ……!  お前、そんなこと言ったら、本当に壊すまで離さねえぞ……!」
美保の純粋で大胆なおねだりに、蓮の愛の衝動が爆発する。
深く、深く、交わるところまで貪り合い、二人の鼓動は完全に重なり合っていた。
シーツを涙で濡らしながら、蓮が与えてくれる絶頂の波に何度も何度も溺れていく美保。
――どれほどの時間が経っただろうか。
窓の外が夕暮れのオレンジ色に染まる頃、ようやく嵐のような情事が落ち着きを見せた。
ベッドの上、疲れ果てて蓮の胸に顔を埋めている美保の髪を、蓮は大きな手で優しく、愛おしそうに撫でていた。その指先は、まるで宝物に触れるかのように繊細だ。
「……なあ、美保」
「ん……?」
「もう、火木土だけなんて言わせねえから」
蓮は美保の額に優しくキスを落とし、少しだけ照れくさそうに、だけど強い眼差しで言った。
「月水金日も、これから先の一生も、全部俺がもらう。……文句ないよな?」
美保は、まだ熱の引かない顔で嬉しそうに微笑むと、蓮の首にぎゅっと抱きついた。
「うん……っ。私の運命は、全部蓮くんのものだよ」
こうして、名家が定めた1週間のスケジュールは初週にして完全に崩壊し、美保と蓮の、甘く、激しく、終わりのない「運命の毎日」が新しく始まったのだった。


――それから数日後。
名家が定めた1週間のスケジュールは完全に形骸化し、美保の薬指には、蓮から贈られた輝く婚約指輪がはめられていた。
ある日の夕方。
美保がリビングでくつろいでいると、大学から帰ってきた蓮が、入ってくるなり美保を後ろから抱きすくめた。
「ただいま、美保……。あー、やっと会えた。今日も1日、ずっとお前のこと考えてた」
大きな身体を美保に預け、首筋に何度も犬のように鼻を押し付けてくる。
あのクールだった蓮はどこへやら、今では美保に対してこれ以上ないほど甘えん坊で、独占欲を隠そうともしない。
「おかえり、蓮くん。……あ、ちょっとくすぐったいよ」
美保がくすくす笑うと、蓮はむすっとした顔で美保の顔を覗き込んできた。
「くすぐったいじゃなくて、もっと嬉しそうな顔してよ。俺、これでも毎日、お前が壮とすれ違って変な空気になってないか心配でたまらないんだからな」
まだほんの少しだけ残る、蓮の可愛い嫉妬。
美保はそんな彼が愛おしくてたまらなくなり、自ら蓮の頬に手を添えて、唇に小さくキスをした。
「ふふ、大丈夫だよ。私の運命は、もう蓮くんのものだって決まったでしょ?」
その瞬間、蓮の目の色が変わった。
「……そんなこと言って、自分から誘ったんだからな」
蓮の手が美保の腰をぐっと引き寄せ、ソファに押し倒す。
唇が再び重なった瞬間、美保の身体の中に、あの「止められない」熱い衝撃が走った。
「ん……っ、ん、ん……」
ただの軽いキスのつもりだったのに、蓮の唇が触れただけで、美保の頭は一瞬でピンク色の快楽に染まっていく。
背筋がゾクゾクと痺れ、息がどんどん荒くなっていく。
一度繋がってしまった運命のジンクスは、日を追うごとにその感度を増しているようだった。
「は、あ……っ。れん、くん……ここ、リビング、だよ……っ」
「関係ねえよ……。お前がそんなに可愛い声出すのが悪い」
蓮の指先が美保のトップスの裾から滑り込み、熱い肌に直接触れる。
その愛撫があまりにも的確で、美保は「ひゃんっ」と甘い悲鳴を上げて蓮の肩に爪を立てた。
「あ、はぁ……っ、うそ、もう、止まらな……ぃ……っ」
「止める気なんてハナからねえよ。もっと熱くなって、俺の名前だけ呼んで」
その時、リビングのドアがガチャリと開いた。
「ただいま。……って、リビングで何やってるんだい、二人は」
入ってきたのは、苦笑いを浮かべた壮だった。
美保は一瞬で顔を真っ赤にして固まったが、蓮は美保を庇うように抱きすくめたまま、壮をキッと睨みつけた。
「壮、入ってくるときはノックしろよ」
「リビングに入るのにノックが必要な家があるかい? まあ、仲が良いのは結構だけど、僕の前であんまり見せつけないでほしいな。まだちょっとだけ、失恋の傷が癒えてないんだから」
壮は肩をすくめると、「お邪魔虫は退散するよ」と、大人の余裕を見せながら自分の部屋へと歩いていった。
壮の気配が遠ざかると、蓮は美保の耳元で、少し拗ねたような低い声を漏らした。
「……壮に見られた。最悪。美保、あいつのこと見ただろ」
「見てないよっ、蓮くんしか見てない……!」
焦る美保の唇を、蓮は塞ぐようにさらに深く、貪るように貪り尽くす。
「壮に見られた分、お仕置き。……部屋に行くぞ。朝まで絶対に寝かせないから」
「あ、ん……っ。うん、れんくん……もっと、いっぱいに、して……っ」
リビングから寝室へと場所を移し、二人はまた、どちらからともなく狂おしい愛の渦へと溺れていく。
もう曜日を数える必要なんてない。
365日、すべての夜が、二人だけの熱く甘い運命の時間だった。




名家である赤羽家と黒鉄家の長年の約束は、最高の形で果たされることとなった。
美保の身体に流れる『運命のジンクス』が選んだのは、双子の弟である蓮。
あの激しい告白と和解の夜から、二人の愛はとどまることを知らず、ついに盛大な結婚式を挙げた。
そして今、二人は南の島のリゾート地、プライベートビーチ付きの最高級ヴィラにいた。
見渡す限りのエメラルドグリーンの海、白い砂浜。
だが、蓮にとってはそんな絶景さえも、美保という最高の存在の前では背景に過ぎなかった。
ヴィラのテラスで、リゾート風の薄手のワンピースを着た美保が海風に髪を揺らしていると、後ろから熱い肉体が隙間なく重なってきた。
「やっと二人きりだ……」
蓮の低い声が美保の耳元を震わせる。
引き締まった腕が美保の細い腰をぐっと抱き寄せ、首筋に何度も熱いキスを落とした。
「蓮くん……ふふ、くすぐったいよ。せっかく綺麗な海なのに、中に入らなくていいの?」
「海なんてどうでもいい。俺が何のために、壮の邪魔が入らないこの遠い島を選んだと思ってんの」
蓮の瞳には、すでに日本にいる時以上の、野生的な独占欲と情熱が渦巻いていた。
結婚式が終わるまで、両家の儀式や準備で、蓮は美保を抱くのをずっと我慢させられていたのだ。
その反動が、今、この楽園で爆発しようとしていた。
「もう誰の目も気にする必要はない。美保、覚悟して。この旅行中、一歩もベッドから出さないつもりだから」
「あ……っ」
蓮の指先が、ワンピースの肩紐をゆっくりと滑り落とす。
その指が肌に触れた瞬間、美保の身体は待ってましたと言わんばかりに、ドクンと甘く疼きだした。
運命のジンクスは、結婚してさらにその感度を増している。
蓮に触れられるだけで、美保の理性は一瞬で溶けてしまうのだ。
蓮は美保を軽々と横抱きにすると、外の景色を遮断するようにカーテンを閉め、大きなキングサイズのベッドへと彼女を連れ去った。




薄暗くなったベッドルームに、シーツが擦れる音と、二人の熱い吐息だけが響き渡る。
「美保、お前、もうこんなに熱い……。俺に触られただけで、すぐこうなるの、本当にたまんねえんだけど」
蓮は意地悪に微笑みながら、美保の衣服をすべて剥ぎ取り、その完全に熟した身体を惜しみなく見つめた。
夕暮れのわずかな光に照らされた美保の白い肌は、すでに蓮への期待でほんのりとピンク色に染まっている。
「だって……っ、蓮くんの手、すごく熱くて……我慢できないの……っ」
美保は潤んだ瞳で蓮を見上げ、自ら腕を伸ばして彼の首に絡みついた。
「お願い、蓮くん……早く、キスして……っ」
「おねだり上手。……いいよ、いっぱいしてやる」
唇が重なった瞬間、世界が弾けた。
激しく、深く、お互いの唾液を貪り合うような接吻。
蓮の舌が口内の敏感な部分を愛撫するたびに、美保の脳裏は真っ白になり、背筋に強烈な電流が駆け抜ける。
「んむ……っ、ん、はぁ……っ! れん、くん、れんくん……っ!」
一度唇が離れても、美保は狂ったように蓮の唇を追いかけた。
止められない。本当に、この男と触れ合っているときは、自分が自分でなくなってしまう。
「あぁ、可愛い……。美保、俺の子供、欲しい?」
蓮は美保の耳元で、わざと低く、淫らな声で囁いた。
「俺たちの運命を証明するような、可愛い子供。お前の中に、俺の種、いっぱい注いでもいい?」
その言葉に、美保の下腹部がキュンと激しく収縮した。大好きな蓮との子供。大好きな蓮の遺伝子を、この身体に宿したい。
「欲しい……っ、蓮くんの子、はらませて……っ!  私の中に、いっぱいいれて……っ!」
美保の情熱的な叫びが、蓮の理性の最後の防波堤を完全に決壊させた。
「美保……っ! 愛してる、誰にも渡さない……っ!」
蓮の引き締まった身体が美保を完全に圧し潰し、二人の最も熱い部分が、ついに一つへと結ばれた。
「ひゃあぁあ……っ!!」
頭の芯まで突き抜けるような、圧倒的な快感。
壮のときには決して感じ得なかった、細胞の一つ一つが歓喜に震えるような衝動が美保を襲う。
蓮は容赦なく、しかし愛おしさを爆発させるように、美保の奥の奥までを激しく突き上げた。
「あ、あ、っ! れん、くん、すごい、これ……っ、トんじゃう、トんじゃうよぉ……っ!」
「トんでいい、俺と一緒にイこう。美保、俺だけを見て、俺だけで満たされて……っ!」
蓮の力強いピストンが繰り返されるたびに、ベッドが大きく揺れ、美保は何度も何度も絶頂の波に飲まれていった。
涙を流し、声を枯らしながらも、美保の身体は蓮をさらに深くへと引き込んでいく。
運命のジンクスによって極限まで高められた二人の結合は、まさに神聖な儀式のようだった。
「んぁああっ……!」
「美保ぉおお……っっ!!」
最も深い場所で、蓮の熱い愛の結晶が、美保の身体の奥深くへと何度も何度も、勢いよく注ぎ込まれていった。
美保は心地よい疲労と、圧倒的な幸福感の中で、蓮の胸にしがみついたまま、意識を宇宙の彼方へと飛ばした。
新婚旅行の1週間、彼らは文字通り、夜も昼も忘れて愛し合い続けた。
それは、二人の運命を完全に固定するための、甘く激しい時間だった。





新婚旅行から帰国した二人を待っていたのは、変わらない黒鉄の屋敷と、そして兄の壮だった。
ある日の午後、蓮が大学の用事で席を外している時、美保はリビングで壮と二人きりになった。
かつては「月水金日」の当番として、美保を優しく包み込んでくれていた壮。
美保は少し緊張しながら、壮にお茶を淹れた。
「壮さん……あの、新婚旅行のお土産です」
「ありがとう、美保さん。……いや、今はもう『蓮の奥さん』だね」
壮はいつものように、穏やかで美しい微笑みを浮かべた。
しかし、その瞳には、以前のような美保への執着や、蓮への対抗心は一切消え失せていた。
「壮さん、私は……」
「言わなくても分かっているよ。美保さん、君の顔を見れば、蓮にどれだけ愛されているか、そして君がどれだけ蓮を愛しているか、一目で分かる」
壮はお茶を一口すすると、少し寂しげに、だけど本当に吹っ切れたような清々しい顔で言った。
「実はね、僕、黒鉄の家を出て、海外の支社に赴任することにしたんだ。もう手続きも済んでいる」
「えっ……!? 海外に……ですか?」
「うん。同じ屋敷にいたら、いつまでも蓮が僕に嫉妬して、君を困らせるだろう? それにね……」
壮は立ち上がり、美保の前に歩み寄ると、彼女の頭をそっと撫でた。
それは、かつての恋人としての触れ合いではなく、本当の「兄」としての、温かい愛撫だった。
「新婚旅行での君たちの強い絆を見て、僕は完全に諦めがついたんだ。赤羽のジンクスは本物だった。僕がどんなに君を大切に思っても、蓮が君に与えるような『魂を揺さぶる快感』は与えられない。君を本当に幸せにできるのは、世界で蓮ただ一人だ。……だから、僕はもう、完全に身を引くよ」
「壮さん……」
美保の瞳から、ポロポロと涙がこぼれ落ちた。
壮の優しさを傷つけてしまったのではないかという罪悪感が、ずっと心のどこかにあったからだ。
「泣かないで。僕は君の義理の兄になれて、本当に嬉しいんだから。蓮のやつ、もし君を泣かせたら、地球の裏側からでも奪い返しにくるって、それだけは伝えておいて」
壮はそう言って、悪戯っぽく笑った。その瞬間、リビングのドアが勢いよく開いた。
「壮!! お前、俺のいない隙に美保に何してんだ!」
帰ってきた蓮が、血相を変えて二人の間に割って入った。美保を背中に隠し、壮を猛烈に睨みつける。
壮は両手を挙げて苦笑いした。
「おっと、怖い怖い。何もしてないよ。ただの、兄としての別れの挨拶さ。じゃあね、二人とも。お幸せに」
壮は蓮の肩をポンと叩くと、振り返らずにリビングを出ていった。
その背中は、かつてないほど堂々としており、美保と蓮の未来を心から祝福しているようだった。
数日後、壮は本当に日本を発ち、それ以来、黒鉄の家で二人の仲を脅かす者は誰もいなくなった。
壮は完全に、美保を諦め、二人の幸せを認めたの。





壮が旅立ってから数ヶ月が経った、ある朝のこと。
美保は猛烈な吐き気に襲われ、トイレに駆け込んだ。
「美保!? 大丈夫か!?」
蓮が血相を変えて背中をさする。その顔は不安で今にも泣きそうだった。
まさか、と思って二商で買った検査薬を試してみると――くっきりと、鮮やかな二本線が浮かび上がっていた。
「蓮くん……見て」
美保が震える手で検査薬を見せると、蓮はその場に固まった。
「これって……」
「うん、私、赤ちゃんができたみたい。蓮くんとの、子供だよ……!」
その瞬間、蓮は美保を壊さないように、だけどこれ以上ないほど愛おしそうに、ぎゅっと抱きしめた。
蓮の肩が、微かに震えている。
「あぁ……嬉しい、美保、ありがとう……っ。俺たちの、運命の証だ……」
蓮の目から、一滴の涙がこぼれ落ち、美保の肩を濡らした。
あのクールで強引だった蓮が、美保の前ではこんなにも素直に感情を爆発させている。
それからの蓮の過保護ぶりは、凄まじいものだった。
お腹が大きくなっていく美保を、まるで世界一壊れやすいガラス細工のように扱い、家事のすべてを自分が引き受けた。
「蓮くん、私、少しはお手伝いできるよ?」
「ダメ。お前は座って、俺に甘えられてるだけでいいの。ほら、口開けて。あーん」
「もう、子供扱いしないでよぉ……(笑)」
お腹が大きいため、以前のような激しいエッチはできなかったが、蓮の愛の深さは少しも変わらなかった。
毎晩、ベッドの中で美保のお腹を優しく撫で、愛おしそうに何度も何度もキスを重ねる。
「美保、お腹が大きくても、お前は世界一エロくて、世界一可愛い。出産が終わったら、またあの時みたいに、狂うまで愛し合おうな」
「うん……っ。蓮くんになら、いつでも狂わされてもいいよ……」
そして、待ち望んだ初夏の日に、元気な男の子が生まれた。
赤ちゃんの顔は、驚くほど蓮にそっくりで、だけど笑ったときの優しい目元は美保に似ていた。
病院のベッドの上、赤ちゃんを抱く美保の横に、蓮がぴったりと寄り添っている。
「美保、本当にお疲れ様。頑張ってくれて、ありがとう」
蓮は美保の額に、深く、優しい、誓いの口づけを落とした。
「俺さ、子供が生まれて、もっとお前のことが好きになった。っていうか、毎日好きが更新されてて、もう一生、お前から離れられる気がしない」
「ふふ、私もだよ、蓮くん。私の身体も心も、一生、蓮くんのものだから」
黒鉄家と赤羽家が交わした、古くからの婚約の約束。
双子の誕生という異例の事態を経て、血のジンクスに導かれた二人の恋は、新しい命という最高の奇跡を結実させた。
子供ができても、これからどれだけ歳を重ねても、二人の絆が揺らぐことは決してない。
触れ合えば一瞬で理性が吹き飛び、お互いしか見えなくなってしまう、あの激しくも甘い『運命の衝動』のままに――。
蓮と美保は、互いを狂おしいほどに愛し、溺れ、そして世界一幸せな家族として、永遠の愛を誓い続けるのであった。

(めでたし、めでたし。お幸せに!)
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