この時間を忘れる方法があるなら
『君にとって初仕事になるパーティーが再来週ある。恋人としてではなく俺の補佐として隣に立てるよう明日から一緒にオフィスに行って欲しい。勿論‥その時は莉奈として』


当たり前にのんびりと過ごしすぎていたせいもあるからか本来の契約内容をもう一度突きつけられ体が少しだけ震えた

交友関係があまりない私ではあるけれど、一歩外に出ればもう佐々木 結愛ではないのだ

柊さんの隣に居なければいけない以上、私は私を隠し通して徹底しなければ愛し合うお2人の助けになれない

『買い物の前に彼女‥‥莉奈に会ってもらえないか?』

ドクン

柊さんの愛する莉奈さん

深い愛を向けられているその女性を演じきることが出来るか不安な私は、無意識に膝の上に置かれた両手をまた強く握りしめていた

逃げ場などもうないことは分かっている‥

柊さんは私の家族を救ってくれた恩人だ‥‥

「分かりました‥お願いします。」

強がりな笑顔を向けると、一瞬柊さんの目が細められた気がしたけれど、到着したその場所に案内される間もずっと心臓の音がうるさかった

『ここは俺が持つ別宅で、莉奈はここにいる』

慣れた手つきで立派なお屋敷に入ると、階段を登った先の部屋のドアを開けた。

規則的な機械音と部屋に流れるクラッシックの音楽が耳に届き、シダーウッドのような香りが鼻を掠める

『川崎様』

『様子は?』

『特に変わりはありませんが、落ち着いています。』

『ありがとう‥少し外に出ていて貰えるか?』

雇われている使用人1人と医者と見られる男性と話した後、彼らが部屋から出ていくと、私の存在などいないかのようにベッドに横たわる莉奈さんの頬に手を触れさせた柊さんが柔らかい表情で彼女を見つめた
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