この時間を忘れる方法があるなら
約束をしてからというもの、柊はオフィスで仕事の補佐をさせながらも、空いた時間には食事のマナーから立ち居振る舞い、英語を兼ねた勉強などの時間を結愛に設けた

ヘアスタイルも長かった髪を鎖骨下辺りで切り揃え作っていなかった前髪も作った

染めたことがなかった美しい黒髪も莉奈さんに合わせて柔らかい赤みのない品のあるベージュにすれば、莉奈さんと見た目はほぼ同じになったと思われる

毎日ヘトヘトになりながらも、自宅に出張して行われる全身エステで意識を失うくらい癒される日々を送っていた

「‥‥どうかな?」

パーティーを目前に控えた頃、結愛は生まれて初めて着るドレス姿に戸惑うしかなかった

高いヒールを履いて歩く練習はしているものの、床スレスレの長さと動きにくい体のラインが出る細身のドレスは流石に動きにくくて仕方ない

莉奈さんが好んで着ていたという形でも、これでは数歩歩いたところで転ぶだろう

仕事の電話をしていた柊は、普段とは違う結愛の姿に目を奪われると、何も言わずにただただ真っ直ぐ結愛を見つめて来た

どうしよう‥‥何も言ってくれないってことは
やっぱり似合っていないのだろう‥‥

どんなに似せても、違うものだってあるはずだ

結愛はその視線に耐えられず俯くと、柊に背を向けてフィッティングルームに戻ろうとすれば案の定ドレスの裾に足を取られてそのまま転びそうになったが、力強い腕に支えられ体を起こされる

『気をつけろ‥怪我でもしたら大変だ』

莉奈さんに向けられた言葉だと分かってる‥

ここで私が怪我でもしたら、当日柊さんの手助けができなくなるからだ
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