この時間を忘れる方法があるなら
「‥柊さん」

『ん?』

「私こそ、こんな素敵な柊さんを見られただけでもここに来て良かったと思ってます‥‥今日は頑張りますからね。」

『‥‥‥』

腕の中から抜け出すと、振り返り満面の笑みで彼を見上げてそう伝えると、何故か少しだけ寂しそうに笑ったが、その後はいつものように優しい表情を見せてくれた

『そろそろ行こう。』

私の手を取り自分の左腕に絡ませると、隣を見上げて小さく頷いた

平凡でどちらかと言えば目立つこともなく生きてきた自分にとっては、これは制限時間付きのシンデレラストーリーのようだ‥‥

この世にこんな世界があって、そんな世界で当たり前のように生きている人がここにいる

柊さんと話すこともなく、目を合わせることもなく生きていくはずだった人生が終わる時はどんな気分なのだろう‥‥

今はまだ想像もつかないから考えるのは辞めたい‥‥それでもふとした時に頭をよぎると、怖いなんて思うのは、大変な中でも色々満たされているからだと思う

大きな扉を潜ると、目の前の華やかな空間に目が眩みそうになるけれど、歩く先々で覚えた知識を少しずつ出し、ただ柊さんに恥じないように凛として姿勢を正していた


『柊、ここにいたのね』

えっ?

柊さんが振り返ったので私もその背後からそちらを伺うと、美しい白のセットアップを着こなした女性の横に立つ女性を見てハッとした

この人‥昨日家を訪ねてきた人だ‥‥

母くらいの年齢の美しい女性も目立つが、可愛らしくて美しさも兼ね備えたその女性はドレスアップをしているものの、間違いない
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