本気のキスに甘くすがって

本気のキスに甘くすがって

「うっ……はぁっ……」

 こらえるような賢人の吐息が降ってくる。

 その声を聞いた柚子は、口の中に含んだ賢人の分身を舌の表面全体で縦向きに(ねぶ)りながらも、視線を上に向けた。ベッドの縁に腰掛けている賢人の表情を観察するためだ。

「はっ……」

 柚子の舌が動き、賢人の肉傘の根元をくにゅりと行き来すると、それが気持ちよかったのか、賢人の口が半開きになる。

 無防備なのに、クールな格好よさが損なわれない、賢人の色っぽい表情。それを見られるのは自分だけ――そう思うと柚子は嬉しくて、賢人の観察はやめて、口をすぼめながら首を前後に振るように動かした。

「やっ、べ……柚子、待て」

 しばらくすると、賢人が柚子の頭に片手を置いて、動きを止めてきた。柚子は名残惜しくも賢人の淫茎を口の中から解放すると、少しだけ不安を映した瞳で賢人を見つめた。

「気持ちよく……なかったですか」

「逆だ。気持ちよすぎてやばい」

 賢人は二度三度深呼吸をすると、あらかじめ出しておいた避妊具の封を破ってそれを装着し、柚子を手招いた。

「上から挿入(いれ)られるか」
「はい……」

 柚子は賢人の両肩に手を置いてベッドに膝を乗せる。すでに前戯で二回ほどイかされたあとだったので、硬くそそり立った賢人の肉棒を迎え入れるのは、それほど苦しくないだろう。

「んっ……あ、あぁっん……」

 ぐち、にちゅ、と愛液がすり潰されるような音とともに、賢人の男竿が柚子の深い女の海へ、ぬちゅちゅと埋まっていく。火照った隘路は広がりながらもむぎゅっとそれを締めつけて、柚子は体のバランスをとるために賢人にぎゅっと抱き付いた。

「あっ、は……はいっ……」
「ああ、入った。柚子のナカ、すっげー気持ちいい」

 賢人は満足そうに笑うと、柚子の体を抱きしめ返し、その頬にちゅ、ちゅと口付けた。

「動くぞ」
「えっ、あ……あ、ぁんっ……あっ、まっ……」

 柚子を落とさないように気を遣いながら、賢人は腰を振る。
 柚子の肉壺は穿つたびにうねるようにからみ付いてきて、賢人を離さない。そんな柚子を愛おしく大事に思う反面、もっと激しくしていっそ泣かせてしまいたいと、賢人は少しばかり凶暴な気持ちにもなる。
 だが、絶対にそんなことはしない。ようやくセックスの気持ちよさを素直に感じるようになってきた柚子の体は、大切に大切に扱いたい。彼女の心を、とても大事な宝物として扱うのと同じように。

「やっ……あ、あぁんっ……」

 両手で臀部を揉むように掴まれ、下から何度も打ち上げられて、柚子の女園はきゅっと締まる。賢人の放つ白濁液を、全部搾り取るつもりだ。

「くっ……イくっ……」
「んっ……あ、ああっ……」

 賢人の腰が一瞬止まり、それはぐっ、ぐっ、と短く柚子の中をノックした。そして熱い液体が、コンドームの中に勢いよく放たれる。

「はあー……はー……」

 全身を気だるさが包み、柚子は賢人の肩にもたれて息を乱した。
 賢人はそんな柚子の中から愚息を抜き、彼女の体をベッドに横たえる。それから、避妊具の始末をして下着を身に着けると、柚子の隣に寝転んだ。

「柚子」
「は、い……」

 脱力した声で返事をする柚子の唇に、賢人はちゅ、と短いキスをする。

「体、大丈夫か?」
「はい……大丈夫です」

 賢人とのセックスに慣れてきたとは思う。しかし毎週しているわけではなく、時には間隔が空くこともあるので、毎度体の中が容赦なく開かれているような気がする。けれども、生まれたままの姿で賢人と抱き合うこの時間は、自分が賢人に不釣り合いだ、というネガティブな思考を抱かずにすむ。それほどまでに賢人が愛情深く、やさしくこの体にふれてくれるからだ。

「賢人さん」
「なんだ」

 柚子は賢人の二の腕を胸の中に抱き込むようにしてくっ付きながら話しかけた。

「六月の中旬まで……少し、会えなくなるかもしれません」

 今の季節は四月。柚子は大学四年次に上がり、就職活動が始まっていた。

「公務員試験が六月の中旬にあるので……」
「ああ、就活か」
「はい……」

 柚子は一応、地方公務員を志望していた。一般企業の採用面接にも行く予定だが、公務員試験に受かって、地元の役所に勤められればいいなと思っている。

「家庭教師のアルバイトも、年度末いっぱいでやめてしまったので……その……お金もあまりなくて」

 柚子は大学一年の頃から、高校の恩師の紹介で中学生の女の子の家庭教師を務めていた。その子はこの春で無事に高校生になり、きりがいいので家庭教師のアルバイトは辞めた。その子からも、その子の母親からも、ぜひ続けてくれないかと請われたが、公務員試験に向けた勉強で忙しくなるので、これまでのようにきめ細やかに指導することはできなくなると思い、柚子自身も惜しみながら別れを告げたのだ。

 だが、たった一つの収入源がなくなってしまったので、これからはしばらく、わずかな貯金を切り崩すしかない。最低限の食費などは親を頼れるが、賢人とのデートに使えるお金はほぼない。公務員試験は決して簡単ではないので、勉強漬けになることを考えたらアルバイトをしなくても大丈夫だ、とは思ったのだが、賢人との付き合いにはどうしても影響が出てしまう。

「金なら俺が出すからいい……が、そうじゃないよな。試験勉強をしないといけないんだよな」

 賢人は柚子の頬を指先でふにふにと軽くつまみながら、優しい目をした。

「俺のことなら気にしなくていい。学生と違って、社会人の数カ月はあっという間に過ぎるからな。会えなくて申し訳ないなんて思わずに、しっかり勉強してくれ」
「はい……すみません」
「謝らなくていい。でも、これは忘れるなよ? 会えるなら柚子に会いたいと、俺はいつでも思ってる。会えない期間があっても俺は平気だが、それは柚子を軽んじているからじゃない。大人の矜持って名前の強がりだ。俺の気持ちを疑ってくれるなよ?」
「ふふっ……わかりました。じゃあ、あの……メッセージはこれまでみたいに、送ってもいいですか?」

 柚子は苦笑しながら尋ねた。
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