観覧車が止まった夜、片想いが動き出した
第一話 夜の観覧車とホットココア
ゴン、と鈍い音がして観覧車が止まった。
頂上まで、あと少し――というところで。

安全確認のための一時停止だと、ゴンドラ内のスピーカーが告げる。

窓ガラスが風にあおられて、細かく震えている。
足元から、じわりと不安がせり上がってくる。

「揺れてますね」

向かい側に座っている東雲(しののめ)さんは、
まるで気にしていないみたいに外を見ている。

「はい……」

私は、うなずくだけで精いっぱい。
今は景色を楽しむ余裕なんてない。

観覧車は苦手じゃないけれど、途中で止まってしまうとなると話は別。

どれくらい地上から離れているのか。
想像するだけで、膝がかすかに震えてしまう。

コートの袖口からのぞく、彼の腕時計に目がいく。
21時30分を過ぎたところ。
秒針が、やけにゆっくり進んでいる気がする。

そっと視線を上げる。

――好きな人が、目の前にいる。

会社では、二人きりで話したことがない。
当然、私の気持ちを彼は知らない。

クリスマスのイルミネーションを、
一緒に眺めるなんて奇跡は、もうないと思う。

こんな状況じゃなければ良かったのに。

(ごめんなさい。今は、地上の方が恋しいです……)

――過去の私に教えてあげたい。

まさか今、
好きな人と観覧車に閉じ込められているなんて。

< 1 / 10 >

この作品をシェア

pagetop