観覧車が止まった夜、片想いが動き出した
✴︎✴︎✴︎

それは、数時間前のこと。

「皆さーん、グラスを持ちましたか~!?」

所属部署の上司、時任(ときとう)さん。
彼女の陽気な声とともに、
大小様々な飲み物グラスが持ち上がった。

「かんぱーい!」

軽やかな音とともに、グラスが打ち合わされる。

時任さんが私の隣に座ると、
笑顔でビールグラスをこちらに向けた。

「朝倉さんも楽しんでね。いっぱい食べて~」

「はい!」

私は、ウーロン茶を持った右手をそっと伸ばす。
コツンと軽い音が鳴る。

今日は、異なる部署で集まった会社の飲み会。
お酒が飲めない私は、普段はこういう会に参加しない。
今回は、お世話になっている時任さんに誘われて、思い切って来てみた。

お鍋の取り分けをしながら、ぐるりと室内を見渡す。

二十人ほどがゆったり座れる和モダンな座敷。
壁の中央には金属製の時計があり、その針は19時を少し過ぎている。

その下で――

東雲さんが、同じ部署の人と話している。

色白の額の中央から、ふわりと分かれた黒髪。
整った目鼻立ちなのに、どこかあっさりとした印象。

淡いブルーのシャツからのぞく、細長い指。
その手には、ストロー付きのグラス。

(東雲さんも、ウーロン茶なんだ)

思わず、じっと見てしまう。

「!」

東雲さんと目が合ってしまった。

彼は逸らすでもなく、穏やかな眼差しを向ける。
私は時が止まったように固まってしまった。

時任さんの手を叩いて笑う声にハッとして、慌ててお鍋に視線を戻す。

(見すぎたかも……!)

動揺して、豆腐が崩れてしまった。
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