限界王子様に「構ってくれないと、女遊びするぞ!」と脅され、塩対応令嬢は「お好きにどうぞ」と悪気なくオーバーキルする。
 私はそんな彼女と敵対したまま何食わぬ顔をして付き合えるとは、とても思えない。格が違いすぎるもの。

 たとえ、メートランド侯爵家が潰れる寸前の窮状にあり、そうするしか選択肢がなかったとしても王太子を騙そうとした時点で、私はもう決められた道を突き進むしかないのだ。

「……そうか。まあ、良い。こうして過ごす時間を増やせば、君だって慣れていくはずだろう」

 ギャレット様は割と楽天的な性格で、自分の思い通りにならないからと言って人を咎めることはない。自分勝手な傲慢さがあったとしても何をしても許されそうな立場なのに、彼はそうしない。

 彼自身が元々持っている素質なのか、王太子という稀有な立場で生まれ育って来た人が受ける特有の教育の賜物なのか、私にはわからない。

 彼のことは、これ以上知らない方が良いのだと思う。だって、知れば知るほど抜けられない沼に入っていく感覚がするから。

「そうですね」

 私はなるべく感情を出さずに立ち上がると、手に持っていた本を本棚に戻そうとした。

 この本が主役二人が決して結ばれぬ悲恋の物語だったから、先ほども変な夢を見てしまったのかもしれない。

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