聖女の力のない令嬢の織った布に、冷徹公爵は恋をした。
「リディア」
扉の外から母の声がした。
リディアは便箋を素早く折りたたんだ。
「入ってもよろしいですか」
「……どうぞ」
マリエルは入ってくるなり、リディアの手元の封書を見て目を細めた。やはり知っていたのだ、とリディアは思った。使用人から報告が入っていたのだろう。
「ネティヤ公爵からね」
「はい」
「何と書いてあったの」
リディアは一瞬迷い、正直に答えた。
「三日後に邸へ来るようにと。工房を見せたいと」
母の顔に、複雑な表情が浮かんだ。喜びと、警戒と、計算が混ざり合ったような顔。リディアはこの顔が苦手だった。母が何かを考えているとき、その考えはたいていリディアの預かり知らぬところで決まっていく。
「行きなさい」
「……お母様」
「チャンスよ、リディア」
マリエルはリディアの前に腰を下ろし、その手を取った。
「公爵閣下が直々にあなたを招いてくださっている。聖女の力がなくても、ネティヤ家との縁が結べれば――」
「それは」
リディアは静かに、しかしはっきりと言った。
「私が決めることです」