聖女の力のない令嬢の織った布に、冷徹公爵は恋をした。


 母が黙った。

 リディアは母の手を、穏やかに握り返した。怒っているわけではない。ただ、これだけは譲れなかった。縁談の道具として誰かのもとへ行くのではなく、自分の意志で行くのでなければ、意味がない。


「……行くかもしれません。でも理由は私が決めます」

 マリエルはしばらくリディアを見つめ、やがて小さく息をついた。

「あなたは昔から、そういう子ね」

 諦めとも、誇りともつかない声だった。

 母が部屋を出ていった後、リディアはもう一度便箋を広げた。


【工房を見せたい。】


 たった一言。それなのに、なぜか嘘には聞こえなかった。昨夜の、あの真っすぐな目を思い出すと、なおさら。

 リディアは便箋を丁寧に折り直して、引き出しの奥にしまった。

 三日後。行くかどうかは、まだ決めていない。

 そう自分に言い聞かせながら、リディアの心の中では、もうとっくに答えが出ていた。



< 13 / 51 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop