聖女の力のない令嬢の織った布に、冷徹公爵は恋をした。
母が黙った。
リディアは母の手を、穏やかに握り返した。怒っているわけではない。ただ、これだけは譲れなかった。縁談の道具として誰かのもとへ行くのではなく、自分の意志で行くのでなければ、意味がない。
「……行くかもしれません。でも理由は私が決めます」
マリエルはしばらくリディアを見つめ、やがて小さく息をついた。
「あなたは昔から、そういう子ね」
諦めとも、誇りともつかない声だった。
母が部屋を出ていった後、リディアはもう一度便箋を広げた。
【工房を見せたい。】
たった一言。それなのに、なぜか嘘には聞こえなかった。昨夜の、あの真っすぐな目を思い出すと、なおさら。
リディアは便箋を丁寧に折り直して、引き出しの奥にしまった。
三日後。行くかどうかは、まだ決めていない。
そう自分に言い聞かせながら、リディアの心の中では、もうとっくに答えが出ていた。