聖女の力のない令嬢の織った布に、冷徹公爵は恋をした。






「リディア、支度をしなさい」


 母、マリエル・ユーリホキラスが部屋の扉を開けたのは、リディアがいつものように窓辺で糸車を回していた時だった。その表情は固く、しかしどこか高揚したものを帯びていた。


「ネティヤ公爵家から、夜会の招待状が届いたわ」


 リディアの手が止まった。

 ネティヤ公爵家。三大公爵家のひとつ、豊穣の聖女の血を引く家。
 そして現当主――アルシェ・ネティヤは、社交界で「鉄の公爵」と呼ばれる三十二歳の男だ。笑わない、愛想がない、婚約者を三人も断ったと噂される。


「……なぜ私が?」

「あちらからの指名よ」


 母はそれだけ言って、さっさと踵を返した。

 リディアは糸車を見下ろした。指先に巻きついた普通の、何の光も宿らない白い糸を。

 聖女の力のない自分が、なぜ。

 その問いへの答えは、夜会の席で、想像もしない形でやってくることになる。








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