聖女の力のない令嬢の織った布に、冷徹公爵は恋をした。
第6章
あの日から、何かが変わった。
変わったのは二人の間の空気だ。工房での時間は以前と同じように続いていたが、同じではなかった。アルシェの視線がリディアに向く回数が増えた。リディアがそれに気づいて目を逸らすと、アルシェも逸らす。そういうことが、一日に何度かあった。
リディアは自分の気持ちを持て余していた。
好きだ、とはまだ言えなかった。言葉にするのが怖かった。言葉にした瞬間、何かが取り返しのつかない方へ動く気がした。
だが否定もできなかった。
あの廊下での温かい手の重さが、まだ頭の上に残っている気がした。眠る前に思い出して、顔が熱くなる夜が続いた。
そんなある日の工房で、リディアは復元した織り技法を使った新しい布を織り上げた。
百年前の切れ端よりも大きく、文様もより鮮明に出た。光を受けると布全体が波紋を揺らし、まるで水面のように輝いた。聖なる力は宿っていない。ただの糸と、ただの技だけで織り上げた布だ。
だがリディアには、これが今まで自分が作った中で一番美しいものだと思えた。
「できました」