聖女の力のない令嬢の織った布に、冷徹公爵は恋をした。
そして、その翌週。どこから伝わったのか、社交界が騒いだ。
ネティヤ公爵とユーリホキラス令嬢が、正式に婚約交渉に入ったという話が広まったのだ。
火に油を注いだのは、クローデット公爵令嬢だった。茶会での一件をまだ根に持っていたのか、あちこちで囁いたらしい。
「聖女の力もない令嬢が、どうやって公爵を篭絡したのかしら」
その噂は盛りに盛られていった。
“リディア嬢がアルシェ様を誘惑した”
“公爵の弱みをリディア嬢が握った”
“公爵は脅されている”
全体的にリディアを悪く言うものばかりでその言葉は当然リディアの耳にも入った。
だが以前とは違った。同じ言葉でも、今は刺さる場所が変わっていた。
以前は古い傷を抉るように痛かったのに今は、遠い場所で鳴っている雑音のように聞こえた。
変えたのは、アルシェの言葉だったと思う。
あなた以外のことが考えられない、と言った言葉。
言葉が傷の上に上書きされて、少しずつ塗り替えていった。