聖女の力のない令嬢の織った布に、冷徹公爵は恋をした。
そして、母のマリエルは、婚約の話を聞いた夜リディアの部屋に来た。
てっきり喜ぶと思っていた。
公爵家との縁組を、母は望んでいたのだから。だがマリエルはリディアの前に座って、しばらく黙っていた。
「お母様?」
「……あなたは」
マリエルはゆっくりと口を開いた。
「……幸せそうね」
「はい」
「公爵家との縁談だからではなく?」
リディアは少し考えてから、答えた。
「アルシェ様だから、です」
マリエルはまた黙った。目が少し潤んでいた。
「力のないあなたを、ずっと心配していたわ」
彼女は静かに言った。
「私はね、今はないのだけど没落した伯爵家の娘だったの。当時、父は借金をしていて公爵家の縁談が来た時にとても父は嬉しそうだった。家のためにここに嫁いだの。だけど、皆好意的じゃなくてね肩身が狭かった。だけどあなたが出来てとても嬉しかった。家の者も喜んでくれたわ。だけど、あなたが力を持ってないとわかって……どこかで肩身の狭い思いをしないかって。とても、申し訳なかった」
「……お母様」
「あの人は、あなたの布を見て来たのでしょう」
「はい」
「力ではなく、あなたが作ったものを見て」
「はい」
マリエルは目を拭った。それから小さく笑った。リディアが久しぶりに見る、飾りのない母の笑顔だった。
「よかった」
その一言に、リディアの胸の奥が、じんわりと温かくなった。