聖女の力のない令嬢の織った布に、冷徹公爵は恋をした。
声は低く、抑揚が少なかった。だが不快ではない。静かな夜に響く低い鐘の音のような声だった。
「はい」
リディアは姿勢を正してカーテシーを返した。ドレスの裾を指先でつまみながら、落ち着け、と自分に言い聞かせる。
「リディア・ユーリホキラスと申します、公爵閣下。本日はご招待いただき光栄です」
「招待したのは私だ」
「……存じております」
「では訊く」
アルシェはリディアの目をまっすぐ見たまま、静かに続けた。
「あなたは、自分に聖女の力がないことを恥じているか」
広間の音が、遠くなった気がした。
無礼な問いだ。普通ならそうだ。初対面で、しかも公衆の面前で、家の最大の傷をえぐるような言葉。隣に立つソフィが息を呑む気配がした。周囲の視線がちらりとこちらに集まる気配も感じた。
だがリディアは、不思議と怒りより先に、別のものが込み上げてくるのを感じた。
――この人は、試しているのだろうか。