聖女の力のない令嬢の織った布に、冷徹公爵は恋をした。
愛想で答えるか。傷ついた顔をするか。あるいは毅然と嘘をつくか。どんな答えを返すか見ている。それはわかった。なぜわかったのかはわからなかった。ただ、あの琥珀色の目が値踏みではなく、もっと別の何かを測っているように感じた。
リディアは一つ、静かに息を吸った。そして少しだけ顎を上げた。
「恥じてはおりません」
嘘ではなかった。惨めだと思ったことはある。悔しくて泣いた夜もある。儀式の場で立ち尽くした十歳の自分を、今でも夢に見ることがある。だが恥だと思ったことは、一度もなかった。生まれついての性質を恥じるのは、自分の存在を恥じることと同じだから。
アルシェの目が、わずかに細くなった。
怒っているのか、笑っているのか、リディアには読めなかった。感情の読めない顔だった。だがその琥珀色の奥に、ほんの一瞬、何かが揺れた気がした。炎のような、水面のような、一瞬のきらめき。
「そうか」
彼はそれだけ言うと、リディアに手を差し伸べた。大きな手だった。白い手袋に包まれた、長い指。
「一曲、踊ってくださいませんか?」
リディアはなぜか、その手を拒む気になれなかった。断る言葉が浮かばなかった、というより、断りたいという気持ちが湧いてこなかった。
リディアはそっと、その手に自分の手を重ねた。
白い手袋越しに、大きな手の温度が伝わってくる。じわりと、確かに。
弦楽が新しい曲へと移り変わるのに合わせて、二人はフロアへ進んだ。周囲の視線が集まるのを感じた。ユーリホキラス家の、聖女の力もない令嬢が、鉄の公爵と踊っている。きっと明日には社交界中に広まる話題だろう。
だがフロアに出た瞬間、そういうものが全部、遠くなった。
アルシェの手がリディアの腰に触れた。もう片方の手がリディアの手を包む。近い距離で、あの琥珀色の目が静かにリディアを見下ろしていた。