姫の花道
傍若無人
「総長の口の悪さは特別やね。普通許されないことなんやけど、ゼファード様が総長にだけはあの態度を許しとる。俺が軍に入る前からのことだから、なんでか知らん。幼馴染って聞いたけど」
「幼馴染って子どもの頃からのお友達ですよね。気の置けない友達ということでしょうか」
アーネストの説明に、セリスは首を傾げる。
(「友達」は「身分」を超えることができるのかしら)
狭い人間関係の中で育ったセリスは、すべてにおいて自分が置かれた環境を基準に考えるしかない。離宮においてはどれほど気安い仲と思っていても、セリスの「友達」となった侍女はいなかったし、あれほど「口が悪い」相手もいなかった。レルワニ以外。
もしかしてラムウィンドスは高貴な生まれで、王子であるゼファードが対等な存在として遇する相手なのだろうか? しかしそれならアーネストが「なんでか知らん」と理由ごと不明扱いするのは何故? と考えていたところで、ふっと影が落ちてきた。
顔を上げて、想定していた通りの無表情を目の当たりにしてセリスは「ああ……」という呻きをなんとか声に出さずに呑み込む。
セリスのわかりやすい表情になどまったく関心が無い様子で、正面に立ったラムウィンドスが言った。
「姫、今日のところはあなたを運ぶのが目的だ。身一つあれば十分だ。行くぞ」
はい、と返事をする前に足が地面から浮く。
「えっ」
まるで荷物のようにセリスを片腕で持ち上げていたラムウィンドスは、自分がそうしたくせになぜか眼鏡の奥で驚いたように目を見開いてセリスを見下ろしてきた。
「軽すぎる。人間なのか?」
「あの……っ、ええっ? わたしは人間です……?」
質問の意味がまったくわからず、セリスも思わず疑問形で答えてしまう。その自信のなさが引っかかった様子で、ラムウィンドスは眉をひそめた。
「自分のことだろう。なぜそんなことがわからない」
「え、ちょっと待ってください、だって普通そんなこと聞かれるなんて思っていないですからね? わたしはあなたの目にどう見えているんですか?」
セリスは今日このときまで自分を人間だと思って生きてきたが、急に不安になってきた。その理由は、これまで離宮の人間以外と接したことがなかったからということに尽きる。
(いままで考えたことも無かったけど、みんな気を遣って本当のことを言わなかっただけで、もしかしてわたしは人間では……ない!?)
誰も指摘してくれなかったが、人生丸ごと大掛かりな嘘に包まれていたという可能性も無いわけではない……と悶々とし始めたところで、呆れたようなゼファードの声が聞こえた。
「いったい、どんな会話なんだそれは。ラムウィンドスは女性を知らなすぎるよ。お前はどうせ意識を失って伸びた男を運んだことしかないんだろうが、武装のひとつもしていない女性は羽のように軽いものだ」
「羽よりは重い」
「うるさい。いいから丁寧に扱うように。荷物のように持つな。まともに女性を扱うことができないならおとなしく私に任せなさい」
ラムウィンドスを叱ってくれるゼファードに心強さを感じ、セリスはよほど「引き取ってください!」と主張したかった。
しかし、無言のままそばに引き立ててきていた馬に飛び乗ったラムウィンドスに抱き直されて、その機会を失ってしまった。
「揺れるからそのつもりで」
セリスを馬に座らせて胸に抱き込んだラムウィンドスは、優しさとは無縁の低い声でそう言うなり馬首を巡らせて馬を走らせた。
「幼馴染って子どもの頃からのお友達ですよね。気の置けない友達ということでしょうか」
アーネストの説明に、セリスは首を傾げる。
(「友達」は「身分」を超えることができるのかしら)
狭い人間関係の中で育ったセリスは、すべてにおいて自分が置かれた環境を基準に考えるしかない。離宮においてはどれほど気安い仲と思っていても、セリスの「友達」となった侍女はいなかったし、あれほど「口が悪い」相手もいなかった。レルワニ以外。
もしかしてラムウィンドスは高貴な生まれで、王子であるゼファードが対等な存在として遇する相手なのだろうか? しかしそれならアーネストが「なんでか知らん」と理由ごと不明扱いするのは何故? と考えていたところで、ふっと影が落ちてきた。
顔を上げて、想定していた通りの無表情を目の当たりにしてセリスは「ああ……」という呻きをなんとか声に出さずに呑み込む。
セリスのわかりやすい表情になどまったく関心が無い様子で、正面に立ったラムウィンドスが言った。
「姫、今日のところはあなたを運ぶのが目的だ。身一つあれば十分だ。行くぞ」
はい、と返事をする前に足が地面から浮く。
「えっ」
まるで荷物のようにセリスを片腕で持ち上げていたラムウィンドスは、自分がそうしたくせになぜか眼鏡の奥で驚いたように目を見開いてセリスを見下ろしてきた。
「軽すぎる。人間なのか?」
「あの……っ、ええっ? わたしは人間です……?」
質問の意味がまったくわからず、セリスも思わず疑問形で答えてしまう。その自信のなさが引っかかった様子で、ラムウィンドスは眉をひそめた。
「自分のことだろう。なぜそんなことがわからない」
「え、ちょっと待ってください、だって普通そんなこと聞かれるなんて思っていないですからね? わたしはあなたの目にどう見えているんですか?」
セリスは今日このときまで自分を人間だと思って生きてきたが、急に不安になってきた。その理由は、これまで離宮の人間以外と接したことがなかったからということに尽きる。
(いままで考えたことも無かったけど、みんな気を遣って本当のことを言わなかっただけで、もしかしてわたしは人間では……ない!?)
誰も指摘してくれなかったが、人生丸ごと大掛かりな嘘に包まれていたという可能性も無いわけではない……と悶々とし始めたところで、呆れたようなゼファードの声が聞こえた。
「いったい、どんな会話なんだそれは。ラムウィンドスは女性を知らなすぎるよ。お前はどうせ意識を失って伸びた男を運んだことしかないんだろうが、武装のひとつもしていない女性は羽のように軽いものだ」
「羽よりは重い」
「うるさい。いいから丁寧に扱うように。荷物のように持つな。まともに女性を扱うことができないならおとなしく私に任せなさい」
ラムウィンドスを叱ってくれるゼファードに心強さを感じ、セリスはよほど「引き取ってください!」と主張したかった。
しかし、無言のままそばに引き立ててきていた馬に飛び乗ったラムウィンドスに抱き直されて、その機会を失ってしまった。
「揺れるからそのつもりで」
セリスを馬に座らせて胸に抱き込んだラムウィンドスは、優しさとは無縁の低い声でそう言うなり馬首を巡らせて馬を走らせた。