可愛い後輩の天使くんはあざと狼でした
朝の通勤時間。
真面目そうなスーツ姿の男性の胸元のネクタイには小さいアフロを被った犬が刺繍されている。
あっちでは、ロングヘアの可愛い女子高生が大きなバッグに“空手着らしきもの”を突っ込んで歩いている。
……ああ、たまらない。

人がふと見せる“二面性”。
一人の人がまるで別人のような顔を持っていることにどうしょうもなく惹かれるのだ。

私、新山胡桃(にいやま くるみ)27歳。
この“二面性フェチ”に気づいたのは高校生のころだ。

仲の良かった友人に勧められて始めた乙女ゲーム。
可愛い男の子を攻略する、よくあるタイプのゲームだった。だけど私は、選択肢を間違えてバッドエンドに突入してしまった。
可愛い男の子が突然ヤンデレ化し、主人公を部屋に閉じ込めてこう囁く。「もう、ここにいれば幸せだよ」と、鎖で繋がれた主人公。優しかった彼の、まさかの“重すぎる愛情”。
その瞬間、私は震えた。え? あの可愛い彼が、こんな重たい感情を隠してたの?そんなのアリなの?
その衝撃が、私の中の“二面性フェチ”を目覚めさせたのだ。

それからだ。私は人の“もう一つの顔”を観察するのが楽しくて仕方なくなった。そんなことを考えていたら会社に到着した。

「おはようございます」

「おはよう、新山」

振り向いたのは水野先輩。ゴリゴリの筋肉質で、強面。初対面の人はだいたい怯えるタイプだ。

「なんか元気ないですか?」

「寝坊しちゃってな。朝ごはん食べそびれた!」

ははっと笑うと、黒い肌に白い歯が映える。

「それなら、いいのありますよ。
水野先輩に買ってきました」

私はカバンからひとつ取り出して差し出す。

「プロテインバーです。しかも期間限定パッケージ!」

パッケージには、可愛らしいアイドルグループの人気メンバー“あやたん”が大きくプリントされている。

「あやたんじゃないか…!
ありがとう、新山!」

水野先輩は感激したように私の手をガシッと握る。

「ツーショット撮ります?」

「頼んだ!」

そう言うと、上腕二頭筋とプロテインバーに映る“あやたん”を並べて、満面の笑みでポーズを決める。

「良きです。あとで送りますね」

「ありがとう!」

あんな強面でゴリゴリマッチョなのに、可愛いアイドルの“あやたん”が大好きなところ。そういうギャップが、最高にいい。
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