私の好きな、彼のにおい~雨に降られたら彼の秘密を知りました~
立花(たちばな)

会社の廊下を歩いていたら後ろから肩を叩かれ、振り返りざまに彼の黒縁眼鏡越しに睨んでいた。

「おっと?」

「あ、ごめん」

降参だと同期の浅倉(あさくら)くんが手を上げるので、反射的に謝る。

「どうした?
なんか嫌なことでもあったか」

視線で彼は、すぐ傍の自販機コーナーへと私を誘った。
隣に立つとふわりと、爽やかな甘さとスモーキーな香りが混ざったにおいがする。
大好きなそのにおいで少し、気持ちが落ち着いた。

「もー、さー、聞いてよー。
課長がさ、
『明日、訪問予定があるのに大事な会合入れちゃった。
謝っといて。
てへぺろ』
とか言うんだよー」

「おー、それは大変だー。
……ほら」

気のない感じで言いながら彼は自販機を操作し、買ったビタミン系ウォーターを差し出してきた。

「……ありがと」

受け取ったそれの蓋を開け、なんとなく決まり悪く数口飲む。
冷たいドリンクは熱くなっていた頭を冷やしてくれた。

「課長も忙しいから時間もないし、仕方ないよね」

面倒を押しつけられたのは嫌だが、電話一本かければ済む用事なのだ。
そこまで怒る必要はない。

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