私の好きな、彼のにおい~雨に降られたら彼の秘密を知りました~
「吸うんだ、煙草」

灰皿まであるんなら、今日、急にってわけではなさそうだ。

「ああ、うん。
日に数本、な。
会社ではほとんど吸わないし、知ってるヤツはあまりいないけど」

「そうなんだ」

彼の香りの謎がようやく解けた気がした。
スモーキーな香りはきっと、――煙草だ。
確かめるためにも、もっと近づきたい。

「ねえ。
ぎゅーってしていい?」

「へ?」

間抜けな顔をして彼は眼鏡の向こうで何度か瞬きをした。

「ほら」

「おい、こら!
濡れるしクサいだろ!」

困惑する彼を無視して抱きつき、その胸に顔をうずめる。

……やっぱり、そうだ。

先ほどまで漂っていた煙草の香りと、香水の爽やかな甘さが混ざった彼のにおいがした。

「私、好きだよ。
浅倉くんのにおい」

浅倉くんを見上げ、微笑みかける。
彼はじっと私を見つめたままなにも言わない。
傾きながら彼の顔が近づいてきて、唇が重なった。

少しして離れた私からも――ふわりと彼のにおいがした。


【終】
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