君の隣。~一番愛した人の裏切り、泥沼のモラハラ彼氏。傷だらけの私を最後に救ったのは、10年間私を忘れられずにいた「親友の元彼」でした~
運命のはじまり

遠回りのプロローグ

――もしあの時、彼を選んでいなければ。

私の人生は、もっと穏やかで、違った形をしていたかもしれない。
あの春、彼と出会っていたのに。
私は何度も傷つき、遠回りをして、長い迷路を歩き続けた。

――ようやく、私を救い出してくれるのが、ずっと隣にいたあの人だと気づくまでに。

ーーーーーーーーーー

ピピピッ、ピピピッ――。
静かな部屋に、スマートフォンのアラーム音が響く。カーテンの隙間から春の柔らかい日差しが差し込んでいるけれど、私の心にはちっとも響かない。

今日から、高校生。
新しい制服に袖を通すと、生地の硬さが肌に触れて、少しだけ背筋が伸びる気がした。
中学時代に密かに憧れていた、可愛いブレザーではないけれど、このセーラー服も鏡で見ると悪くない。

でも。
玄関でローファーを履く私の足取りは、ひどく重い。
本来なら、新しい生活の始まりに心躍らせるはずの朝なのに。

理由は明確だ。
付き合ってまだ三ヶ月の彼氏、雅人(まさと)と別の高校になってしまったこと。
たった三ヶ月。一番楽しい時期に、私たちは違う制服を着て、違う場所へ通うことになった。連絡をすれば繋がれる距離だけど、物理的な距離は、時として心に寂しい影を落とす。

――私の名前は、下崎柚那(しもざきゆずな)。

中学時代、ハンドボール部で副キャプテンを務めていた頃の私なら、きっとこんな朝を笑い飛ばしていただろう。コートを駆け回り、誰よりも大きな声を出してチームを引っ張っていたあの頃の自分を思い返すと、今のこの湿った気分はあまりに自分らしくない。

「はぁ……」

小さく吐き出したため息は、春の暖かな空気に溶けていく。
私は自転車の鍵を開け、待ち合わせ場所へと向かった。

角を曲がったところで、幼なじみの真美(まみ)が自転車に跨って待っていてくれた。

「おはよー!」

いつも通りの明るい声に、私は無理やり口角を上げる。

「高校生活、どんな感じかな?」

真美の他愛のない問いかけに答えながら、自転車を走らせる。沿道の桜並木が淡いピンク色に染まっている。風に乗って舞う花びら。
けれど、私の視界の端には、雅人の笑顔ばかりがチラついて離れない。

この学校で、どんな出会いが待っているんだろう。
そう期待する反面、私の心はどこか雅人への執着と、寂しさで塗りつぶされていた。

学校の正門が見えてくる。そこには、春の空気が賑やかに満ちている。
新しい景色が、私の心を少しだけ前向きにさせてくれるはずだと、そう信じたかった。

私は少しだけ深呼吸をして、門をくぐる。
雅人のいないこの場所で、私の新しい三年間が今、動き出す。
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