君の隣。~一番愛した人の裏切り、泥沼のモラハラ彼氏。傷だらけの私を最後に救ったのは、10年間私を忘れられずにいた「親友の元彼」でした~

溶け切らない不安

新太と会う約束の日。

今日は、夜に新太の両親と、お兄さん、そしてその彼女さんと一緒に夕食を囲む予定が入っていた。
それ以外は特に決まったプランはなく、昼過ぎ、私は電車に揺られて新太の家の最寄り駅に向かっていた。

車窓から流れる景色をぼんやりと眺めながらも、頭の中にはあの夜に並べ替えたあのガラケー打ちの言葉が、何度も浮かんでは消える。

改札を抜けると、いつものように新太が待ってくれていた。

「おつかれ! 電車でわざわざ来てくれてありがとな。とりあえず俺ん家でいいか?」

「うん、ありがと」

無邪気に笑う彼を見て、少しだけ胸が締め付けられた。
私たちはそのまま、歩き慣れた道を並んで新太の家へと向かった。

「こうやってゆっくり会うの、久しぶりだな! 体育祭の準備はどう? 進んでる? 俺のブロックはさ……」

自分の部屋に入るなり、新太はいつも通り楽しそうに話し始めた。けれど、会話の合間に何度もスマホに視線を落とし、LINEを返している。

今までだって、彼がスマホを触ることは普通にあったはずなのに。
今はどうしても、その画面の先に誰がいるのかを勘ぐってしまう自分がいた。

案の定、新太の口からは「梨花がさ」「茉莉がさ」と、二人の名前がやけに自然に出てきて、そのたびに私の心は複雑に波打った。

(……新太は、何を思いながらその名前を口にしてるの?)

喉の奥まで出かかった言葉を必死に飲み込む。すると、不意に新太が思い出したように顔を上げた。

「あ、そうそう! この前、勇斗と話す機会があってさ」

「……勇斗と?」

「うん。最近柚那と会ってるか聞かれたから、お互い忙しくてゆっくり会えてないことを言ったんだよ。そしたら勇斗が、『最近柚那、元気なさそうだぞ。準備で忙しいのはわかるけど、柚那との時間も大切にしろよ』って……」

勇斗が、そんなふうに言ってくれていたなんて。

明里から何か聞いていたのかもしれないし、私の些細な変化に気づいてくれていたのかもしれない。いつも不安や辛いことがあると、こうして明里や勇斗がそっと私を助けてくれる。

「最近なかなか会えなかったもんな。勇斗に言われて気づいたよ。寂しい思いさせてごめんな」

新太はそう言って、私を優しく抱き寄せた。
その言葉に救われたような、でもどこか悲しいような気持ちで、私は彼の背中に腕を回して頷くことしかできなかった。

結局、約束の時間までずっと新太の部屋で過ごした。

彼が淹れてくれた飲み物を飲みながら、他愛のない話をする。そして、少しでも彼との繋がりを確かめたくて、静かに肌を重ねた。

きつく抱きしめられるたびに、彼の体温が私の中に流れ込んでくる。
私はすがるように彼にしがみついた。あの日からずっと胸にへばりついていた嫌な予感が、彼と触れ合うこの瞬間だけは、甘い夢の中に溶けていくようだった。

私だけを見てくれている。私を大切に思ってくれている。
そう信じたくて、何度も彼の温もりを確かめ合った。

「新太ー! ご飯行くわよー!」

一階から響いたお母さんの明るい声で、いきなり現実に引き戻される。私たちは慌ただしく服を着て、部屋を出る支度をした。

夕食の席では、お兄さんやその彼女さんも含め、みんなで賑やかに会話を楽しんだ。
新太の家族はとても温かくて、私を本当の家族のように優しく迎え入れてくれる。
その居心地の良さが、今の私には少しだけくすぐったくて、同時にひどく切なかった。

帰りは新太の両親が家まで車で送ってくれて、私たちは名残惜しく別れた。

「また明日な」と手を振る新太は、いつもと何も変わらない、私の大好きな新太だった。

車を見送り、静かになった自分の部屋へと入る。

やっぱり、私の考えすぎなのかな……?

答えの出ない問いを何度も自分に投げかけながら、私は一人、ベッドに体を預けた。
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