君の隣。~一番愛した人の裏切り、泥沼のモラハラ彼氏。傷だらけの私を最後に救ったのは、10年間私を忘れられずにいた「親友の元彼」でした~

進めない心

翌日。
私はどうにか重い体を引きずって、学校へ向かった。

朝、教室まで明里が来てくれて、昨夜のことや今の胸の内を少しだけ話すことができた。
明里の痛ましそうな顔を見たらまた泣きそうになったけれど、なんとか歯を食いしばって堪える。

休み時間。
新太に振られたショックと悲しみに耐え切れず、教室の机に突っ伏していると、誰かに肩をトントンと優しく叩かれた。

顔を上げると、そこには勇斗が立っていた。

「よっ!」

ダメだ。
勇斗のまっすぐな顔を見た瞬間、我慢していたタガが外れ、堰を切ったように涙が溢れ出して止まらなくなってしまった。
私は慌てて両手で顔を覆う。

「ごめん……っ、勇斗の顔を見たら、なんか涙が止まらなくなっちゃう……」

勇斗は少し驚いたように目を見開くと、何事もなかったかのように私の前の席にスッと座った。
私の泣き顔が他のクラスメイトから見えないよう、わざと大きな背中で視線を遮ってくれる。

面と向かって目線を合わせ、静かな声で言った。

「……俺が泣かせたみたいじゃんか(笑)」

冗談めかして笑った後、勇斗は続けて、うんと優しいトーンで言葉を紡いだ。

「大丈夫、大丈夫。泣きたいときは泣けばいいんだよ。涙が出るときは、そのまま流せばいい」

そう言って、勇斗は目の前にコトッと何かを置いた。

「ほら、箱ティッシュ持ってきたぞ!」

差し出されたそれを見て、私は涙でぐしゃぐしゃの顔のまま、思わず噴き出した。

「ふふっ……そんなに使わないよ」

気がつくと、さっきまであんなに泣いていたのに、私は少しだけ笑っていた。
涙が落ち着いた頃、勇斗は少し真面目な顔をして、優しく言った。

「なんか聞いてほしいこととかあったら、明里でも俺でもいいから、ちゃんと話せよ? 溜め込むのは一番良くないからな!」

そう言い残して、授業の始まりを告げるチャイムとともに、勇斗は自分の教室へと戻っていった。
彼のさりげない優しさとあたたかさが、今は本当にありがたかった。


放課後。
私は一つ深呼吸をして、紙袋を手に持った。
中に入っているのは、クリーニングに出した新太の学ラン。
部活が始まる前に、これを返しに行かなければならない。

重い足取りで新太の教室へ向かい、そっと中を覗き込んだ。
けれど、そこに新太の姿はなかった。

代わりに視界に飛び込んできたのは、梨花の姿だった。
友達と楽しそうに笑い合っている彼女を見た瞬間、心臓がギリッと嫌な音を立てて痛む。

私は新太の席に近づくと、机の横にあるフックに、紙袋の持ち手を引っ掛けた。

……これで、本当に終わり。

振り返ることなく、私は静かに教室を後にした。


その後の部活は、地獄だった。

ハンドボール部とサッカー部のコートは隣同士だ。
グラウンドに出ると、視界の端にどうしても新太の姿が入ってしまう。

さっき、机の横に掛けられたあの紙袋を見たのだろうか。
そんな私の不安をよそに、新太はいつも通りボールを追いかけ、仲間と楽しそうに笑い合っている。

学ランを返されても、私たちの関係が終わっても、彼の心には何の波風も立っていないのかな……。
そう思うと、胸が押し潰されそうで、息ができないくらい辛かった。


部活が終わったあと、私は真美、明里、千春の三人としばらく話をすることになった。
私は意を決して、みんなに打ち明けた。

「……新太と、別れたんだ」

驚くみんなの前で、私は消え入るような声で続けた。

「……まだ、諦められていないんだよね」

すると、千春がまっすぐな瞳で言った。

「また自分を磨いて、振り向かせればいいんだよ」

彼女の言葉は正論だ。納得できる部分も確かにある。
前を向いて、もっと可愛くなって、見返してやるくらいじゃないといけない。

けれど、今の私にはそんな気力なんて、もうどこにも残っていなかった。

(……気力なんて、ないよ)

でも、諦めきれないからこそ、こうして苦しいんじゃないか。

心の中でそう呟きながら、私はただ、行き場のない思いを抱えて俯くことしかできなかった。
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