君の隣。~一番愛した人の裏切り、泥沼のモラハラ彼氏。傷だらけの私を最後に救ったのは、10年間私を忘れられずにいた「親友の元彼」でした~
視線の先にある変化
あの春休み、明里と別れたという勇斗からの報告LINEに返信をした後、私たちのやり取りはなぜかそのまま途切れることなく続いていた。
『私もね、新太への気持ち、もう完全に吹っ切れたんだ』
そう送った私に、勇斗から返ってきたのは『そっか。お互い、やっと前向けたな』という短いけれど温かい言葉だった。
過去の恋に区切りをつけたという共通のスタートラインに立ったからなのか、それからの私たちは、他愛もない日常の話を頻繁にLINEでやり取りするようになっていた。
やがて3年生になり、理系と文系で校舎の階が分かれてしまった私たちだけれど、時々こうして部活終わりなどの階段ですれ違うこともあった。
「お、柚那じゃん」
階段の踊り場で声をかけられ、見上げると、部活を終えたばかりの勇斗が立っていた。
「あ、勇斗。おつかれ」
他愛もない言葉を交わしながら、私はふと、彼の姿をまじまじと見つめてしまった。
勇斗が所属する野球部には、『1年生のうちは坊主、2年生からは短髪OK』という暗黙のルールがある。
だから、1年の頃の彼はきれいな坊主頭だったし、2年生になってからは少し髪が伸びて短髪になっていたはずだ。
けれど、2年生の頃の私は新太のことでいっぱいいっぱいで、毎日泣いてばかりいて……勇斗の髪型が変わったことなんて、気にも留めていなかった。
こうして改めて正面から見ると、スッキリとした短髪が整った顔立ちにとてもよく似合っている。
それに、部活終わりだからか、いつもより少しだけ着崩した学ランの首元から、汗ばんだ鎖骨とがっしりした胸元がのぞいていた。ふわりと鼻腔をくすぐるのは、スポーツ用の制汗剤の爽やかな香り。
(……あれ? 勇斗って、こんなにかっこよかったっけ……?)
いつの間にそんな大人びた雰囲気をまとうようになったのか。目の前の彼は、私の知っている『ただの男友達』から、一人の男の子として急に視界に飛び込んできた。
動揺した私は、思わずドクンッと跳ねた心臓を隠すように慌てて視線を逸らした。
「なに? 俺の顔に何かついてる?」
不思議そうに首を傾げ、少しだけ顔を近づけてくる勇斗。至近距離から漂う熱と香りに、私はさらに息を詰まらせた。
「う、ううん! 何でもない! じゃあね!」
逃げるように階段を駆け下りながら、熱を持った自分の頬を両手でパシパシと叩いた。
その日の夜。
自室のベッドでいつものように勇斗とLINEをしていると、さっきの階段での彼の姿が何度も脳裏に蘇ってきた。
『今日、階段危なかったぞ。転ぶなよ(笑)』
そんな私をからかうような、でも気遣ってくれているメッセージを見るたびに、胸の奥がくすぐったくなる。
私が一番苦しかった時、何も聞かずにそばにいて、味方になってくれた勇斗。
今までずっと、ただの『すごく仲の良い男友達』だと思っていた。
でも、今の私は、スマホの画面に彼の名前が表示されるだけで、ほんの少しだけ嬉しくなってしまっている。
(……私、もしかして勇斗のことが……)
そこまで考えた瞬間、頭の中に『明里』の無邪気な笑顔がフラッシュバックした。
ダメだ。
勇斗は、一番大切な親友の元カレだ。つい最近まで、明里が泣いて縋るほど好きだった相手なのだ。
そんな彼を、私が特別な目で見るなんて絶対に許されない。
私はスマホを伏せ、湧き上がりそうになる感情に、ギュッと強くブレーキをかけた。
『私もね、新太への気持ち、もう完全に吹っ切れたんだ』
そう送った私に、勇斗から返ってきたのは『そっか。お互い、やっと前向けたな』という短いけれど温かい言葉だった。
過去の恋に区切りをつけたという共通のスタートラインに立ったからなのか、それからの私たちは、他愛もない日常の話を頻繁にLINEでやり取りするようになっていた。
やがて3年生になり、理系と文系で校舎の階が分かれてしまった私たちだけれど、時々こうして部活終わりなどの階段ですれ違うこともあった。
「お、柚那じゃん」
階段の踊り場で声をかけられ、見上げると、部活を終えたばかりの勇斗が立っていた。
「あ、勇斗。おつかれ」
他愛もない言葉を交わしながら、私はふと、彼の姿をまじまじと見つめてしまった。
勇斗が所属する野球部には、『1年生のうちは坊主、2年生からは短髪OK』という暗黙のルールがある。
だから、1年の頃の彼はきれいな坊主頭だったし、2年生になってからは少し髪が伸びて短髪になっていたはずだ。
けれど、2年生の頃の私は新太のことでいっぱいいっぱいで、毎日泣いてばかりいて……勇斗の髪型が変わったことなんて、気にも留めていなかった。
こうして改めて正面から見ると、スッキリとした短髪が整った顔立ちにとてもよく似合っている。
それに、部活終わりだからか、いつもより少しだけ着崩した学ランの首元から、汗ばんだ鎖骨とがっしりした胸元がのぞいていた。ふわりと鼻腔をくすぐるのは、スポーツ用の制汗剤の爽やかな香り。
(……あれ? 勇斗って、こんなにかっこよかったっけ……?)
いつの間にそんな大人びた雰囲気をまとうようになったのか。目の前の彼は、私の知っている『ただの男友達』から、一人の男の子として急に視界に飛び込んできた。
動揺した私は、思わずドクンッと跳ねた心臓を隠すように慌てて視線を逸らした。
「なに? 俺の顔に何かついてる?」
不思議そうに首を傾げ、少しだけ顔を近づけてくる勇斗。至近距離から漂う熱と香りに、私はさらに息を詰まらせた。
「う、ううん! 何でもない! じゃあね!」
逃げるように階段を駆け下りながら、熱を持った自分の頬を両手でパシパシと叩いた。
その日の夜。
自室のベッドでいつものように勇斗とLINEをしていると、さっきの階段での彼の姿が何度も脳裏に蘇ってきた。
『今日、階段危なかったぞ。転ぶなよ(笑)』
そんな私をからかうような、でも気遣ってくれているメッセージを見るたびに、胸の奥がくすぐったくなる。
私が一番苦しかった時、何も聞かずにそばにいて、味方になってくれた勇斗。
今までずっと、ただの『すごく仲の良い男友達』だと思っていた。
でも、今の私は、スマホの画面に彼の名前が表示されるだけで、ほんの少しだけ嬉しくなってしまっている。
(……私、もしかして勇斗のことが……)
そこまで考えた瞬間、頭の中に『明里』の無邪気な笑顔がフラッシュバックした。
ダメだ。
勇斗は、一番大切な親友の元カレだ。つい最近まで、明里が泣いて縋るほど好きだった相手なのだ。
そんな彼を、私が特別な目で見るなんて絶対に許されない。
私はスマホを伏せ、湧き上がりそうになる感情に、ギュッと強くブレーキをかけた。