君の隣。~一番愛した人の裏切り、泥沼のモラハラ彼氏。傷だらけの私を最後に救ったのは、10年間私を忘れられずにいた「親友の元彼」でした~
隣の席の勇斗
玄関をくぐり、恐る恐るリビングへ足を踏み入れると、そこには仕事から帰ってテレビを見てくつろいでいるお父さんがいた。
「お、お父さん、ただいま。……あのね、帰り道が暗いからって、送ってくれたの」
私の背後からひょっこりと顔を出した見知らぬ男子高校生に、お父さんの目が点になる。
「お邪魔します! はじめまして、鈴村勇斗と言います」
勇斗がハキハキと丁寧に挨拶をすると、お父さんは『娘が男を連れてきた』という事実に少し動揺したのか、なぜか緊張した面持ちで「あ、あぁ、こんばんは」とぎこちなく返した。
軽く挨拶を済ませていると、キッチンからは食欲をそそるカレーライスの香りが漂ってきた。
「みんな席座って~! ごはん食べるよ! 柚那、ちょっと手伝って」
お母さんに言われて、私は勇斗に適当な席についてもらい、急いでキッチンの準備を手伝った。お皿やお茶を運びに行くと、そこには思わず二度見してしまう光景が広がっていた。
勇斗とお父さんが、ダイニングテーブルで肩を並べて座っているのだ。
どうやら、勇斗が遠慮して座った端の席が、偶然にもお父さんの定位置の真横だったらしい。
私とお母さんも向かいの席につき、改めて肩を並べている二人を見ると、なんだかシュールで可笑しくて吹き出しそうになった。
「フフッ、なんで二人並んでるのよ。席、交代しようか?」
お母さんが笑いながら提案したけれど、二人は
「いえ、僕はここで大丈夫ですよ!」
「まぁ、俺も別に……」
と、それぞれ照れくさそうに答えた。
みんなが揃って「いただきます」と食事を始めようとしたとき、私は勇斗の様子を伺った。
カレーを盛る際、私は確かに気づいていたのだ。今日のカレーには、夏野菜のナスがゴロゴロと入っていることに。
(どうしよう……勇斗、ナス苦手だったよね!?)
お母さんの手前、「ナス抜いて」とも言えず、私は勇斗がどうするのかハラハラしながら見守った。
しかし、彼は何も気にする様子もなく、お父さんやお母さんと楽しそうに談笑しながら、大きめのナスも普通に口に運んでいく。
(あれ? もしかして、ナス食べられるようになったのかな?)
私は不思議に思いながら、チラチラと彼の様子を窺っていた。
食事が終わり、すっかり両親と打ち解けた勇斗は、丁寧に挨拶を済ませて私の家をあとにした。
玄関先の外まで見送る際、私は夜風に当たりながらこっそり彼に尋ねた。
「今日はありがとう。……あのさ、ナス、大丈夫だった? 勇斗、苦手だったよね?」
すると彼は、少し驚いたように目を丸くした後、照れたように笑った。
「俺が苦手なの、覚えててくれてたんだな」
その、嬉しさを隠しきれないような優しい声色に、私の心臓がドクンと大きく跳ねる。
「……本当は今も苦手なんだけど。柚那の家のごはん、残したくなかったし。なんとか大丈夫だったよ。カレー、すごく美味しかったって、改めてお父さんとお母さんによろしく伝えておいて」
笑いながら言ったその言葉を聞いて、胸の奥がじんわりと熱くなった。
苦手なものを無理して食べてくれたことも、両親への誠実な気遣いも、すべてが彼らしい優しさに溢れていた。
勇斗が私の両親と食卓を囲むことになるなんて、数時間前まで想像もしていなかった。けれど、あの緊張の中にあった温かくて楽しい時間は、間違いなく今の私を幸せな気持ちで満たしている。
(こんなの……好きにならない方が、無理だよ)
彼の優しさに触れるたび、自分にかけていたブレーキが音を立てて崩れていきそうになる。
けれど、次に頭に浮かんだのは、やっぱり大好きな明里の笑顔だった。
(……ダメ。これ以上は絶対にダメだ)
親友を裏切るような真似はできない。
私は、今にも溢れ出しそうになるこの甘い想いに、必死で、重く冷たい蓋をした。
「お、お父さん、ただいま。……あのね、帰り道が暗いからって、送ってくれたの」
私の背後からひょっこりと顔を出した見知らぬ男子高校生に、お父さんの目が点になる。
「お邪魔します! はじめまして、鈴村勇斗と言います」
勇斗がハキハキと丁寧に挨拶をすると、お父さんは『娘が男を連れてきた』という事実に少し動揺したのか、なぜか緊張した面持ちで「あ、あぁ、こんばんは」とぎこちなく返した。
軽く挨拶を済ませていると、キッチンからは食欲をそそるカレーライスの香りが漂ってきた。
「みんな席座って~! ごはん食べるよ! 柚那、ちょっと手伝って」
お母さんに言われて、私は勇斗に適当な席についてもらい、急いでキッチンの準備を手伝った。お皿やお茶を運びに行くと、そこには思わず二度見してしまう光景が広がっていた。
勇斗とお父さんが、ダイニングテーブルで肩を並べて座っているのだ。
どうやら、勇斗が遠慮して座った端の席が、偶然にもお父さんの定位置の真横だったらしい。
私とお母さんも向かいの席につき、改めて肩を並べている二人を見ると、なんだかシュールで可笑しくて吹き出しそうになった。
「フフッ、なんで二人並んでるのよ。席、交代しようか?」
お母さんが笑いながら提案したけれど、二人は
「いえ、僕はここで大丈夫ですよ!」
「まぁ、俺も別に……」
と、それぞれ照れくさそうに答えた。
みんなが揃って「いただきます」と食事を始めようとしたとき、私は勇斗の様子を伺った。
カレーを盛る際、私は確かに気づいていたのだ。今日のカレーには、夏野菜のナスがゴロゴロと入っていることに。
(どうしよう……勇斗、ナス苦手だったよね!?)
お母さんの手前、「ナス抜いて」とも言えず、私は勇斗がどうするのかハラハラしながら見守った。
しかし、彼は何も気にする様子もなく、お父さんやお母さんと楽しそうに談笑しながら、大きめのナスも普通に口に運んでいく。
(あれ? もしかして、ナス食べられるようになったのかな?)
私は不思議に思いながら、チラチラと彼の様子を窺っていた。
食事が終わり、すっかり両親と打ち解けた勇斗は、丁寧に挨拶を済ませて私の家をあとにした。
玄関先の外まで見送る際、私は夜風に当たりながらこっそり彼に尋ねた。
「今日はありがとう。……あのさ、ナス、大丈夫だった? 勇斗、苦手だったよね?」
すると彼は、少し驚いたように目を丸くした後、照れたように笑った。
「俺が苦手なの、覚えててくれてたんだな」
その、嬉しさを隠しきれないような優しい声色に、私の心臓がドクンと大きく跳ねる。
「……本当は今も苦手なんだけど。柚那の家のごはん、残したくなかったし。なんとか大丈夫だったよ。カレー、すごく美味しかったって、改めてお父さんとお母さんによろしく伝えておいて」
笑いながら言ったその言葉を聞いて、胸の奥がじんわりと熱くなった。
苦手なものを無理して食べてくれたことも、両親への誠実な気遣いも、すべてが彼らしい優しさに溢れていた。
勇斗が私の両親と食卓を囲むことになるなんて、数時間前まで想像もしていなかった。けれど、あの緊張の中にあった温かくて楽しい時間は、間違いなく今の私を幸せな気持ちで満たしている。
(こんなの……好きにならない方が、無理だよ)
彼の優しさに触れるたび、自分にかけていたブレーキが音を立てて崩れていきそうになる。
けれど、次に頭に浮かんだのは、やっぱり大好きな明里の笑顔だった。
(……ダメ。これ以上は絶対にダメだ)
親友を裏切るような真似はできない。
私は、今にも溢れ出しそうになるこの甘い想いに、必死で、重く冷たい蓋をした。