君の隣。~一番愛した人の裏切り、泥沼のモラハラ彼氏。傷だらけの私を最後に救ったのは、10年間私を忘れられずにいた「親友の元彼」でした~

卒業までの余白時間

一足先に受験という大きな山を越えた私は、卒業までの余白の時間を利用して、自動車教習所に通い始めることにした。

高校生活が終わりに近づき、周りが卒業後の準備を進める中で、少しでも前に進んでいたいという焦りにも似た思いがあったのかもしれない。

教習所の独特な緊張感には、なかなか慣れなかった。
学科教習の教室を見渡すと、私と同じように制服を着た同世代の子を見かけることもあったが、そこまで多くはない。

そんな中、不思議とだいたいいつも同じタイミングで講義を受けている男の子がいた。

話したことはないけれど、真剣に教本を開く横顔を、なんとなく覚えるようになっていた。

教習所に通い始めてから1ヶ月が経った、ある寒い日。
私はついに、卒業検定の日を迎えていた。

「……はぁ」

冷えた手のひらに息を吹きかけながら、車に乗り込む。
その日は私を含め、三人で一台の試験車に乗り合わせる形だった。

後部座席に乗り込んできた男の子の顔を見て、ハッとする。
あの、学科教習でいつも見かけていた男の子だった。

試験開始前に「よろしくお願いします」と軽く挨拶を交わす。
車内に充満する独特の緊張感の中、検定は進んでいった。

すべての日程が終わり、合格発表の時を待つ。
掲示板に番号が並び、その中に自分の番号を見つけた瞬間、張り詰めていた肩から一気に力が抜けていくのが分かった。

よかった……一発で受かった……!

合格の安堵に浸り、ほっと息を吐き出していた、その時だった。

「……あの、今日はお疲れ様でした。いきなりすみません、さっき一緒に試験を受けていた者です」

背後から掛けられた爽やかな声に振り返ると、例の男の子が立っていた。

少し照れくさそうに頭をかく彼の名は、和也(かずや)くんというらしい。

最初は思わず身構えてしまったけれど、言葉を交わすうちに、私と同じ高校3年生だということが分かった。

「あの検定、めちゃくちゃ緊張しましたよね。……てか、今日の検定官、結構態度デカくて嫌な感じじゃなかったですか?」
「え……?」

ふいにこぼれた和也くんの愚痴に、私は少しだけ戸惑った。
検定官は確かに厳格な雰囲気だったけれど、理不尽な態度は取られていない。初対面の人にいきなりそんな不満を口にする彼に、ほんの少しだけ引っかかるものを感じた。

けれど。

「あ、ごめんなさい! 俺もいっぱいいっぱいで、つい。……でも、お互い無事に合格してて本当によかったですね!」

すぐに屈託のない笑顔を向けられて、私の小さな警戒心はふわりと解けてしまった。
緊張からくる言葉だったのだろうと、自分を納得させる。

「本免の学科試験も、一発で受かろうね」
「うん、お互い頑張ろう!」

そう言って笑顔で励まし合い、私たちはそれぞれの帰路についた。

冷たい冬の風が吹く帰り道。
新しくできた「同じ目標を持つ知り合い」の存在に少しだけ心が軽くなる。

ただ、さっきの彼の一言が、なぜかチクリと胸の奥に引っかかっている。
(……まあ、緊張してたって言ってたし、いっか)
私は小さく首を振って、その正体のわからないモヤモヤを、冷たい冬の風の中へと紛れ込ませた。
< 86 / 93 >

この作品をシェア

pagetop