君の隣。~一番愛した人の裏切り、泥沼のモラハラ彼氏。傷だらけの私を最後に救ったのは、10年間私を忘れられずにいた「親友の元彼」でした~

予想外の命令、甘い匂い

何回かゲームを進めていった時。
またしても、美波が王様を引き当てた。

「じゃあ次の命令ね! 1番と2番がキスする!!」

ニヤニヤしながら美波が言った。
その突拍子もない命令に、新太が「はぁ!? お前バカじゃねーの!?」とすかさずツッコミを入れる。
けれど、美波は「王様の命令は絶対でしょ!」と引く気は一切ないようだ。

そんなやり取りをどこか他人事のように聞きながら、私は手元の割り箸に目を落とした。

そこに書かれていた数字を見て、心臓が跳ね上がる。
私の数字は『1』だった。

(嘘……私が1番だ……)

美波は王様だから、私がキスをすることになる相手は、自動的に新太か勇斗のどちらかになる。
急に心臓がバクバクと激しく波打ち始め、手のひらにじっとりと汗がにじむ。

「ほらほら、1番だーれだ!?」

美波の楽しそうな声が部屋に響く。
私は恐る恐る、自分の箸をみんなの前に差し出した。

「……私だよ」

「お、柚那!!  じゃあ、運命の2番はだーれだ!?」

美波の目が一段と輝く。
部屋の中に、それまでの賑やかな空気とは違う、妙な緊張感が走る。

そして、一人の男子がゆっくりと箸を上げた。

「俺だよ」

勇斗だった。
その瞬間、頭が真っ白になった。
美波が「えっ、本当に!?」と声を上げる。いつもなら真っ先に茶化すはずの新太は、なぜかどこか気まずそうに顔をそむけていた。

勇斗に対して特別な恋愛感情は無かったけれど、さすがに相手が男子となると正直、激しく戸惑ってしまう。

(本当にするのかな……?)
(どうしよう……勇斗は嫌じゃないのかな……?)

ぐるぐると思考が空回りして動けずにいると、勇斗がまっすぐ私を見た。
その瞳はいつもより真剣で、冗談を言っているようには見えない。

「柚那、ここ座って」

トントン、と自分のすぐ隣の床を叩いて、勇斗に呼ばれる。
緊張で足が震えそうになりながら、私は言われるがまま、吸い寄せられるように彼の隣へと座った。

勇斗が少しだけ、私の方へと体を寄せる。

部屋の中が、急にシンと静まり返ったような気がした。さっきまで聞こえていた新太や美波の気まずそうな息遣いすら、遠くに感じる。

「……本当に嫌だったら、言って?」

耳元で、勇斗の少し低い声が聞こえた。

その直後、ふっと勇斗の大きな影が私に重なる。

初登校の日に遠くから見つめていた、あの背が高くて、顔の小さい勇斗が、すぐ目の前に迫ってくる。私服のシャツから、ほんのりと爽やかな洗剤のような匂いがして、胸が苦しくなるほど締め付けられた。

ゆっくりと彼の顔が近づいてきて、私はたまらず目を閉じた。

私たちは、キスをした。
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