それは面倒で。 でも愛しくて。

出会い

 ある街中の外れに一軒のコーヒーショップがある。
 その店は全国に店舗を持つチェーン店だ。そうであるにも関わらず、立地が良くないのか客足が伸びない。そのためこの店を知る人からは穴場だと言われ、静かな時間を過ごしたい常連客がひっそりと通う。
 静かな店内、穏やかなクラシックのBGM。コーヒーと甘いお菓子の香りが漂い、お洒落な店は今日も閑散としている。
 壁一面ガラス張りで、店内の様子がよく見える。その手前はテラス席。冬の間は閉鎖されているその席は、雪も溶け、だいぶ暖かくなったこの季節にはそろそろ再開されるだろう。
 あたしはガラス張りのドアを押し、中に入る。
 カウンターにいる精悍な店員さんが、あたしの顔を見ていらっしゃいませ、と爽やかに笑う。
「カフェオレのレギュラーと、チョコレートドーナツください」
 ここに来たら大抵同じメニューだ。店員さんもあたしの顔を覚えていて、注文の用意をするのがとても早い。
「かしこまりました。……今日は温かいですね」
「そうですね。やっとコートを着なくてもいい季節になりましたね」
「この温かさだと、来月にはテラス席も復活できそうですよ」
「外で飲むコーヒーも美味しいですよね。開放感あって好きなんです。楽しみ」
 他愛ない話をしながらも、店員さんはてきぱきと動く。ドーナツをガラスケースから出して皿の上にさっと載せる。カフェオレを作ってくれた別の店員さんが、トレーに商品をすべて載せるとお待たせ致しました、と差し出してくれた。精悍な店員さんがその隣で再度爽やかに微笑み、小さな声で耳打ちする。
「お連れ様、いらっしゃってますよ」
 どき、とする。そっか。もう来てたんだ。
「……あの、あたしの格好、変じゃないですか」
 今日は白のオフショルダーに水色のロングスカートを合わせた。温かくなってきたとはいえ、まだ少し肌寒いのでマフラーを巻いて肌を隠している。今日は持ち前のふわふわセミロングをバレッタで一つに纏めて後ろで留めた。耳にはハート型の小ぶりなピアスを付けている。
 店員さんは微笑み「可愛いですよ」と言ってくれた。お世辞でも、その言葉を貰えると安心する。
 最後にごゆっくり、と優しい言葉をかけてくれて、カフェオレとドーナツの載ったトレーを受け取った。
 
 いつもの席に、歩を進める。
 店の奥、二人掛けの席がいくつか並んでいる。その一番奥があたしのお気に入りの席だ。今日は先客がいて、その席にはスラリとした男性が座っていた。赤茶の癖っ毛に、黒縁メガネのその奥の目は、優しい印象を与えるとろんとした垂れ目。肌は白く、ワイシャツと黒のチノパンを履いている。ベージュの上着は椅子の背に掛けていて、テーブルの上にはパソコンとブラックコーヒーが湯気を立てて佇んでいた。
 あたしはその男性に近づいて同じテーブルの向かいに座った。パソコンとにらめっこをしていた男性の視線があたしを映す。難しい顔をしていた男性は、あたしがマフラーを取って膝にかけ名前を呼ぶと、優しい笑顔で待ってたよ、と低くて心地よい声でそう言った。
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