元カノの恋愛小説が映画になったので、忘れたはずの初恋が大ヒット上映中です
理緒は佐藤さんに固い笑顔を向けたまま。
佐藤さんは、そんなことはお構いなしに未来が見えなくなるまで爽やかな笑顔を振りまいていた。
しかし、まとまりのない空気は、スイーツが届くと一変した。
届いたのは、一人前サイズの丸いチョコレートケーキだった。
表面は艶やかなビターチョコレートで覆われ、上には赤や白の細工チョコレートが飾られている。
パティシエの兄だが、全く知識がないので、チョコレートケーキとしか分からない。
「わぁ。可愛い! ザッハ・トルテかな?」
理緒が感嘆の声を上げる。
「へぇ……やっぱり、町のケーキ屋とは違うもんだな」
佐藤さんも感心している。
我が妹ながら、素直に凄いと思った。
インスタントコーヒーすら濃かったり薄かったりする妹と同一人物が作ったとは思えない繊細さを感じさせる。
「スイーツなのに、見た目だけでこんな楽しめるもんなんだな」
佐藤さんはケーキを観察するように言った。
「私、ロールケーキを作ろうと思って練習したことがあるんです」
理緒は思い出したように言う。
「味は悪くはなかったんですが、上手く巻けなくて、“ロール”ケーキになりませんでした。お菓子って、見た目を整えるのが凄く難しいんです」
理緒は、なぜか佐藤さんではなく、俺の方を見ながら言った。
なぜ俺に向けて話すのか、分からなかった。
でも、その視線を悪い気はしないと思っている自分もいた。
「そう……なんだ。未来が何か適当にやってるイメージしか湧かないから、知らなかった」
俺は、無難にそう返した。
「へぇ。じゃあ今度食べてみたいな」
佐藤さんの返しは無難じゃなかった。
「誠さん、話聞いてました? 私、上手く作れないって言ってるんですよ?」
理緒は怪訝な顔をする。
これも、初めて見る理緒の顔だ。
「美味しいんでしょ? いいじゃん」
「……誠さんには、作りません」
「なんでよ」
「何ででもです」
理緒はそう言うと、なぜか気まずそうにこちらを見た。
しかし、俺と目が合うと、すぐに逸らした。
「もう、ロールケーキは作らないので。……ほら、もっと美味しいケーキが目の前にあるんですから、こっちを楽しみましょう」
そう言いながら、理緒はケーキを口に運ぶと、蕩けるように笑った。
その表情は、中学生の頃は大人っぽく見えていた理緒とは少し変わって見えた。
いや、違う。
きっと、変わったのは理緒じゃない。
俺が知らなかっただけだ。
中学生だった俺には、理緒のほんの一部しか見えていなかったんだろう。
「ビターチョコが甘すぎず、上のフランボワーズチョコと合いますね。私、ビターチョコは苦手なんですけど、これは美味しいです」
理緒の何気ない感想にドキッとする。
――ビターチョコ……。
遠山先生の顔が浮かんだ。
何で今、遠山先生のことを思い出したのか。
目の前には理緒がいる。
なのに、俺の頭に浮かんだのは、遠山先生だった。
その事実を、うまく飲み込めないまま、俺はケーキを口に運んだ。
佐藤さんは、そんなことはお構いなしに未来が見えなくなるまで爽やかな笑顔を振りまいていた。
しかし、まとまりのない空気は、スイーツが届くと一変した。
届いたのは、一人前サイズの丸いチョコレートケーキだった。
表面は艶やかなビターチョコレートで覆われ、上には赤や白の細工チョコレートが飾られている。
パティシエの兄だが、全く知識がないので、チョコレートケーキとしか分からない。
「わぁ。可愛い! ザッハ・トルテかな?」
理緒が感嘆の声を上げる。
「へぇ……やっぱり、町のケーキ屋とは違うもんだな」
佐藤さんも感心している。
我が妹ながら、素直に凄いと思った。
インスタントコーヒーすら濃かったり薄かったりする妹と同一人物が作ったとは思えない繊細さを感じさせる。
「スイーツなのに、見た目だけでこんな楽しめるもんなんだな」
佐藤さんはケーキを観察するように言った。
「私、ロールケーキを作ろうと思って練習したことがあるんです」
理緒は思い出したように言う。
「味は悪くはなかったんですが、上手く巻けなくて、“ロール”ケーキになりませんでした。お菓子って、見た目を整えるのが凄く難しいんです」
理緒は、なぜか佐藤さんではなく、俺の方を見ながら言った。
なぜ俺に向けて話すのか、分からなかった。
でも、その視線を悪い気はしないと思っている自分もいた。
「そう……なんだ。未来が何か適当にやってるイメージしか湧かないから、知らなかった」
俺は、無難にそう返した。
「へぇ。じゃあ今度食べてみたいな」
佐藤さんの返しは無難じゃなかった。
「誠さん、話聞いてました? 私、上手く作れないって言ってるんですよ?」
理緒は怪訝な顔をする。
これも、初めて見る理緒の顔だ。
「美味しいんでしょ? いいじゃん」
「……誠さんには、作りません」
「なんでよ」
「何ででもです」
理緒はそう言うと、なぜか気まずそうにこちらを見た。
しかし、俺と目が合うと、すぐに逸らした。
「もう、ロールケーキは作らないので。……ほら、もっと美味しいケーキが目の前にあるんですから、こっちを楽しみましょう」
そう言いながら、理緒はケーキを口に運ぶと、蕩けるように笑った。
その表情は、中学生の頃は大人っぽく見えていた理緒とは少し変わって見えた。
いや、違う。
きっと、変わったのは理緒じゃない。
俺が知らなかっただけだ。
中学生だった俺には、理緒のほんの一部しか見えていなかったんだろう。
「ビターチョコが甘すぎず、上のフランボワーズチョコと合いますね。私、ビターチョコは苦手なんですけど、これは美味しいです」
理緒の何気ない感想にドキッとする。
――ビターチョコ……。
遠山先生の顔が浮かんだ。
何で今、遠山先生のことを思い出したのか。
目の前には理緒がいる。
なのに、俺の頭に浮かんだのは、遠山先生だった。
その事実を、うまく飲み込めないまま、俺はケーキを口に運んだ。